たしかに、と思い出す。
引っ越しの日「それじゃあ、バイバイ」なんて言って車に乗り込んで行った、りっくんの後ろ姿を。その背中に向かって、「私、りっくんのこと絶対忘れないから!」なんて言って、「俺も」と返されたことを。
私だってりっくんの存在を忘れたことはない。
教室で男子がバカやってるときに必ず「りっくんなら……」と思うし、EFOでモモを名乗ったのも、歌唱魔術を使っているのも、全部りっくんの影響。
「りっくんってどれくらい遠くに引っ越すの?」
「んー、向こうまで父さんが運転するんだけど、500キロくらい運転しなきゃってぼやいてた」
「500キロ……」
そんな会話もやけに覚えている。
それに人生で楽しかったことランキング圧倒的1位は、りっくんと河川敷で集まり、即興のへんてこな歌を聴かせていたことだ。
でも……。
私の言った「忘れない」と、りっくんの言う「忘れない」は何かが違うと思う。
りっくんみたいにIDを覚えることなんて私にはできない。
何かが違うけど何が違うんだろう。
りっくんは私にまつわる全てを覚えている、とか?
私はりっくんについてほぼ覚えてない。好きなスイーツだって知らな……いや、いちごタルトが好きって言ってた。好きな教科は算数じゃなくて数学、好きなおかずは最後に食べるタイプ。あれ意外と覚えてるな?
それ以降、EFOのチャットで頻繁にりっくんと話すようになっていた。
土日が終わって月曜になり、そして月曜の授業が終わった。
「ね、今日こそ絶対に遊ぼう!」
「うん。何する?」
「じゃあまずアプデ情報を確認して、それから、ええと――……」
EFOをすすめてくれた例の友達と、一緒に帰り道を歩く。彼女とは家が近いので、時間さえ合えば一緒に登下校していた。
話を聞きながら歩いていると、ポケットのスマホが密かに震えた。
周りがこちらを見ていないことを確認してから、すぐ戻せるように意識しながらこっそりスマホを取り出し、見る。
『いつかまたオリジナルの歌を聞かせて欲しい』



