こっちを向いて、ヴェルランド。

ヴェルランドは気怠げに身体を起こすと、地下室にまで漂ってくる謎の匂いに顔を顰めた。

この屋敷には、自分含め昨日助けてやった女しか居ない筈である。

(全く…、)

ヴェルランドは盛大に溜息を吐くと、匂いをさせている張本人の元へと向かう。

案の定、調理場へと向うと、 昨日助けた女が雨に濡れた様子で何やら一生懸命に料理をしている。

よく見ると、フライパンの上には新調したであろう卵と、いつぞやの干し肉が一緒に焼かれている。

「中々、いい感じじゃない。あとはこれをトースターで焼いたパンの上に乗せれば…」

女はヴェルランドが居ることにも気付かぬまま、どこか楽しそうに料理を続けている。どうやら呑気に朝食を作っているようだ。

「…」

ヴェルランドは壁に肩を預け、腕を組んだまましばらく女の様子を何う。

「それにしても、食料がこれだけだなんて…。意外と生活に困窮しているのかしら?」

「…」

「でも、良かった。まさか、卵を分けて貰えるなんて思わなかったわ」

その言葉に、ヴェルランドは怪訝そうに顔を顰めた。

(貰った…?)

この屋敷から来たと知れば村人達はさぞ警戒したに違いない。それなのに何故この女は卵を分けてもらえたのか?

鼻歌まじりに料理を作る目の前の女にヴェルランドは首をかしげる。

そもそも、身知らぬ屋敷で呑気に料理を作るとは何事か。

昨晩出来るだけ冷たくあしらったと言うのにこれでは銃を構えて脅した意味がない。

「…」

「うん、いい感じ!後は…塩胡椒で味付けして…うわ!?!」

その時、ようやく女はヴェルランドの方へと振り返ると驚いた表情で一歩後ろへと後ずさる。

「一体、何をしている」

ヴェルランドの不機嫌な声に女は咄嗟に視線を逸らす。

「えっと、、、お腹が空いてしまったので料理を…」

「調理場の使用を許した覚えはないが?」

「す、すみません」

女の態度にヴェルランドは溜息を吐くと、ふと先ほど気になった事を尋ねてみる。

「その卵は一体、どこで調達した?」

「卵?、あぁ、これなら村のお店で…。何でも形が悪いから、どうぞと分けていただきました」

「金は要求されなかったのか?」

「え、えぇ。屋敷から来たと伝えたら貴方の分もと多めにいただきました」

「怪しいとは思わなかったのか?」

「…?何故です?親切にしてくださったのです」

どうやらこの女には人を疑うという考えが無いらしい。

ヴェルランドは再び溜息を吐くと、フライパンの上で焼かれていた食材を容赦なく窓の外へと投げ捨てた。

「何をするのですか?!」

突然のことに女は理解が追いつかないのか、驚いた様子で声を張り上げる。

「言ったはずだ。調理場の使用を許可した覚えはない」

ヴェルランドはそう吐き捨てると、荒らしくフライパンを元の場所へと戻した。

「そ、そんな!せっかく分けてくださった食材をあんな風に粗末にするなんて!」

女の言葉にヴェルランドは、わかりやすく失笑してみせる。

「なるほど。では、説明してやろう。貴様が分けて貰った卵は恐らく数日前の売れ残りだ」

ヴェルランドは手元に置かれたカップに手を伸ばすと、中に並々と水を注いでいく。

「貴様は腐った卵とそうでない卵の見分け方を知っているか?」

突然の質問に女は戸惑いの表情をみせる。

その様子にヴェルランドは眉を顰める。よくそんな知識で他人から貰った食材を料理しようと考えたものだ。

「では、教えてやろう」

ヴェルランドはそう言うと、まだ残っている卵を水の中へと放り込む。放り込まれた卵は水飛沫をあげ一度は沈み込むが、すぐに水面へと顔を出した。

「これで、何がわかるのですか?」

「本来、新鮮な卵は水に沈む。だが腐敗している卵はガスが発生しているため水に浮いてしまう」

ヴェルランドの説明に女は意外そうにコップに投げ入れられた卵を見つめる。

「でも、何故そんな…腐った卵を譲ったりしたのでしょうか」

今までに悪意を向けられた経験がないのか、女は戸惑い気味に視線を伏せる。

「村の人間は、よほど私を追い出したいのだろう…」

「追い出す?貴方を?何故?」

「貴様に話す義理はない…。説明は以上だ。早々にここから立ち去れ」

ヴェルランドはガンベルトから銃を抜くとそれを女に突きつけた。