こっちを向いて、ヴェルランド。

「クソ!一体どうなってやがる!」

シリウスの兵は負傷した右手を押さえながら近くにあった岩陰へと隠れる。

先程から標的の男は闇に乗じて、仲間の部隊を確実に殲滅させている。

元ゼロ部隊だと話には聞いていたが、こんなに強いとは聞いていない。

「何なんだ…、あの人外な動きは…」

銃弾を全て使い切り、爆薬も全て試してみたが、そのどれも奴の体に当たることは無かった。

「このままじゃ全滅だ…」

シリウスの兵は、戦闘を諦めた様に空を仰ぐ。こんな日に限って雲の切れ間からは綺麗な満月が輝いている。

「…こんな事なら弾を一発残しておけば良かった」

戦場ではよくある事だが、最後は自分の手でと思う兵士も少なくはない。

「…まぁ暫くここで隠れていよう。もしかしたら助けがー」




「それは無理な話だな」



「え、、、」


次の瞬間、兵士の頭から赤い血が噴き出す。

辺りは一面黒い霧に包まれ、その中からダンゼルが姿を現すと兵士の男はそのまま地面へと転がった。

「何故ならカノープス侵略に多くの兵を割いている為だ」

ダンゼルは不愉快そうに顔を顰めると、右手を空へと伸ばす。

「全く…、化け物一匹退治するのに一体どれほど時間が掛かってる…」

すると、先ほどまで闇に包まれていた世界に大きな満月の光が降り注いだ。

「あまり人前で魔法は使わない主義だが…、まぁいい」

ダンゼルはそう言うと、何やら呪文を唱え始める。

すると、その呪文に反応したかの様に遠くの方から魔獣の遠吠えが響き渡った。

「あそこか…」

ダンゼルはそれを確認すると、魔獣化したヴェルランドの動きを魔法で封印する。

「全く、こんな雑魚にこれほど兵を消耗されるとは…」

ダンゼルはもがき苦しむ魔獣の元へと瞬時に移動すると、乱れた髪を整えた。

「さて…、聞こえているか?カノープスの姫君よ。まだ近くに居るのだろう?」

ダンゼルの問いかけにリーリエは体を強張らせる。

東へ走ったはいいが、恐怖で上手く逃げ切る事が出来ずにいた。そんなリーリエの事を見透かした様にダンゼルは話を続ける。

「お前の愛しい男はこれから永遠の眠りにつく…。だが、私も悪魔ではない。お前が素直にシリウスへと帰るなら、この男の命は救ってやろう…」

魔獣はそれを聞いて再び暴れ始める。しかし、ダンゼルは魔法でその動きを封印する。

「さぁ、早くしろ。私は気が長い方ではないのでな…」

ダンゼルはそう言うと、静かにカウントダウンを始める。

5…

4…

3…

2…

「おやめください!」

リーリエは堪らずダンゼルの前に姿を現すと、身動きを封印されたヴェルランドを見つめる。

「ヴェルランド!」

リーリエはダンゼルに近づくとその場にひざまづく。

「お願いします!何でも言う事は聞きます!だからその人を殺さないで!お願い!」

リーリエの必死な願いに、ダンゼルはニヤリと微笑む。

「ほう、何でもか。それはいい…」

ダンゼルはひざまづくリーリエへと近づくとその顔に優しく触れた。

「だが、しかし、お前は私を裏切った…。この仕打ち、どう落とし前をつけてもらおうか?」

「それは…」

黙り込むリーリエにダンゼルはヴェルランドへと放った封印の力を強める。

「ググぁああああ!」

魔獣化したヴェルランドは苦しそうに叫び声を上げると、リーリエは慌ててダンゼルの腕に抱きいた。

「お願い!やめて!本当に何でもします!雑用でも貴方の世話係でも!」

「…では私の花嫁になれ。その後は文字通り何でもやってもらおう…。アルベルト!」

懇願するリーリエにダンゼルは満足そうに微笑むと、忠実な部下の名前を呼んだ。

すると少し離れた場所から慌てた様子でアルベルトが姿を現した。

「遅い…どこへ行っていた」

「すみません陛下…」

アルベルトは息を切らしながら敬礼すると、リーリエを急いで拘束する。

「女は連れて行け…」

「はい…、この男はどうします?」

アルベルトは魔獣化したヴェルランドを一瞥する。

「あぁ、こいつは…ここで始末する」

「そんな!!」

ダンゼルの返答にリーリエは声を張り上げる。

「やめて!殺さないで!」

「さっさと連れて行け!」

「承知しました」

アルベルトは軽く頭を下げると、リーリエを無理矢理連れて姿を消した。