こっちを向いて、ヴェルランド。

結局、あの会話以降何も話さなくなってしまったリーリエとヴェルランドは二人して静かに最後の晩餐を終えた。最初はヴェルランドが気を利かせて色々と声をかけていたが、すっかり意気消沈してしまったリーリエには何を言っても響かなかった。

翌日ー。

気まずい雰囲気のまま、二人は身支度を済ませるとグーグースへと跨る。

「忘れ物はないか?」

「はい…、大丈夫です」

必要最低限の会話を済ませると、ヴェルランドはグーグースの手綱を引いて走り始めた。

昨晩と違って、森の中はとても明るく鳥達の声で賑わっている。

(何だか、全然違う場所みたい…)

あの恐ろしさはどこへやら。リーリエはグーグースに揺られながら空を仰ぎ見る。幸か不幸か、本日の天気は晴れ模様だ。

「…何か気になるのか?」

「え?」

唐突に声をかけられ、リーリエは思わず反応する。

「空を見ていた。何かあったのか?」

ヴェルランドの問いかけにリーリエは戸惑い気味に口を開く

「何もないですよ…、ただ気持ちいいなって思っただけです」

すると、背中越しにヴェルランドが微笑んだ様な気がした。

「そうか。それは良かった」

「?」

「ようやく、まともに会話ができて安心したー。」

ヴェルランドの言葉に、リーリエは昨晩の自分の態度を反省する。

「その…、昨日はごめんなさい。ヴェルランドを色々と困らせてしまって…」

リーリエは素直に昨晩の出来事を謝罪する。

「ほんの出来心で、あんな事を口走ってしまいました…。その、本当にごめんなさい」

どうか本気にしないでほしい。あれは唯の出来心ー、「気にするな」といつもの様に流してほしい。

「……何故お前が謝る」

「だって…」

「お前は素直に自分の気持ちを言葉にしたまでだ。謝ることはない」

「で、でも!ー」

「お前の申し出は嬉しかった。これは本当だ。ただ、私とお前では立場も生きて来た時代も違う。違う事だらけだ…」

どこか自嘲する様に話し始めたヴェルランドにリーリエは黙り込む。

「私は、この呪いと添い遂げなければならない。どんなに誰かを愛しても私より先に死んでいく…。もうこれ以上大事な人を失いたくはない」

「…」

「だから、不躾なのは承知で、お前の話を遮った。謝るべきは私の方…、すまなかったな」

ヴェルランドはそこまで話し終えると、静かに黙り込んだ。

「…それって、私のこと嫌いではない。と言うことですか?」

「…あぁ、嫌いなものか」

「で、ではっ!」

リーリエは我慢できずに勢いよく後ろを振り返る。

「私のこと、好きですか?どうなんですか?生きて来た時代とか、呪いとか、リリィ王女の事とか関係なかったら…どうなんです!」

振り向いた先にあった表情は酷く驚いている。

「…」

「…」

暫しの沈黙が流れる。グーグースは何事かとその歩みを止める。

「……ヴェルランド。教えてください」

リーリエの声が自信なさげに小さくなる。

「…お前の様な女に好かれて嫌がる男はいない」

「そんな定型分おやめ下さい」

「…リーリエ、お前は確かに美しい。だがお前が微笑む時、リリィの顔が嫌でも思い浮かぶ。私は二人の女を愛せるほど器用な男では無い。わかってくれー。」

「…そう、ですか」

ヴェルランドの言葉にリーリエは静かに涙を流す。

リリィ王女なんていなければー、

彼女になんか似ていなければー、

あの夜この人に出会わなければー。

涙を拭うこともせず、目の前で泣き始めたリーリエにヴェルランドは困り果てる。

そして、戸惑い気味にその頭を優しく自分の方へと抱き寄せた。

「泣いてくれるな…、頼む…」

「頼む、と言われても…」

リーリエはしゃくりあげながら、ヴェルランドの胸元を濡らしていく。

「…ここを抜ければ花の丘に出る。そこで少し休もう。綺麗な花が沢山咲いている。きっとお前も喜ぶ筈だ」

「随分とお詳しいのですね…」

「昔…、来たことがある」

「リリィ王女といらしたの?」

「あぁ…」

「そうですか…」




(彼の過去はいつだって、彼女との思い出ばかりだ…)