こっちを向いて、ヴェルランド。


これは、幻ー。

心の中でリーリエは何度も同じ言葉を呟く。

呪文を唱え終えた後も幻影が消えて無くなるまで、何度も何度も同じ言葉を繰り返す。

「これは、幻ー。これは、幻ー。」

ようやく周りの音が静まり返り、本来の静かな音に切り替わる。

リーリエはそっと目を開くと、小さく深呼吸をする。

(やっと、消えたー。)

あのまま幻が消えてくれなかったらどうしようと、一抹の不安を覚えたが何とか切り抜けた様だ。

「さて、早く帰らなくては…」

リーリエは小枝の感触を感じると、ヴェルランドの所へ戻ろうと踵を返す。

「あれ?」

しかし、そこで一つの違和感に気付かされる。

(ここは…、何処?)

よく見ると今までいた場所とはだいぶ違う場所に立っている事に気がつく。

(心を惑わすだけで無く、道にも迷わすのね…)

通りで皆が叫びの森を恐れる訳だ。

リーリエは仕方なく、その場に座り込む。別に誰かに追われているわけでは無い。ここは朝になるまで静かに待とうと思った。

(朝になれば、幻は消える。という事は道を迷わす事もしないはず…)

リーリエは一人納得すると、静かに抱えていた小枝を下ろした。

(ヴェルランドは私のことを心配しているかしら?)

いや、きっと怒っているに違いない。

リーリエは体育座りをすると膝に頭をもたげる。こんな時でも常に彼のことが頭に浮かんでしまう。

「…駄目よ、リーリエ。彼にはとても素敵な女性が居るんだから」

幻の様に、きっと二人は愛し合っていたに違いない。

「はぁ…、私ももっと早くダンゼルの妃候補になっていれば」

リーリエはそこまで考えて頭を横に振る。

そんなこと考えてはバチが当たる。ただでさえリリィ王女はダンゼルに殺されてしまったのだ。

「そうよ、リリィ王女だってもっと自由に生きたかったに違いない…」

そしたら、普通に結婚して、可愛い子供たちに恵まれていたかも知れない。

リーリエは空を仰ぐ。綺麗な星々が今日も優しく煌めいている。どうにも最近は感傷的になることが多くて困ってしまう。

(大丈夫。夜が明けたら彼の元へと帰ろう)

そして、全力で謝ろう。

貴方を愛してしまってごめんなさいと。