こっちを向いて、ヴェルランド。


リーリエの気配が消えた事に気がついたのは、ヴェルランドが簡易的な寝床を作り終えた後の事だった。

そろそろ火をおこそうとマッチを手に取るが、先ほどから妙に周囲が静かである。

「リーリエ…?」

彼女の名前を呼んでみるが、それに返事は無い。

顔をあげて周囲を見渡してみるが、リーリエの姿は何処にも見当たらない。

「…一体どこにいった」

ヴェルランドは焦った様子で何度も周囲を見渡す。

「リーリエ、リーリエ!」

いくら呼んでも返事が無い事にヴェルランドはようやく彼女が何処かへ姿を消した事を認識する。

(まさか…、シリウスの追ってが来たのか?)

いや、彼らは今頃プロキオンを血眼になって探しているはず。こんな厄介な森がある灰の町にわざわざ夜に立ち寄るとは考えずらい。

ヴェルランドはそう考えながら出来るだけ丁寧に周囲を散策する。すると、視線の先に何かが光った。

「…髪飾り?」

地面に落ちていた細長い髪飾りを拾うと、それを夕暮れの空に翳してみる。

確か名前は簪と言って、カノープスの女性がよく使う髪飾りの一つである。

(恐らく、リーリエの物だ…)

ヴェルランドは簪をしまうと、その周囲を散策する。すると、前方に草木の生い茂った森の入り口がぼんやりと姿を現した。

「叫びの森…」

ヴェルランドは一人呟くと目を細めて森の先を見据える。わずかだが、小さな足跡が森の中へと続いているのが見える。

(まさか…、一人で行ったのか?)

ヴェルランドは暫く考えを巡らせると小さく溜息を吐く。

「彼女に仕事を任せた私の過ちだな…」

出来る事ならあまり入りたくは無いが、彼女に仕事を振ったのは他でも無い自分である。

ヴェルランドは銃の弾数を数えると、ライターの火を頼りに森へと足を踏み入れる。

空はもう既に闇に包まれ始めている。

(さて、お姫様を探しに行こうかー。)

ヴェルランドは心の中で静かに呟くと、闇の中へと姿を消した。