こっちを向いて、ヴェルランド。


リーリエが試着室から戻ると、ヴェルランドは既に準備を終えていたのか荷物一式を背中に背負っていた。

「お待たせしました。あれ、リヒトさんは?」

リヒトの姿が見えない事にリーリエは不思議そうに周囲を見渡す。

「リヒトなら、グーグースを取りに行っている」

「ぐーぐースー?」

聞き慣れない名前にリーリエは首を傾げる。

「グーグース。スは伸ばさない。まさか…知らないのか?」

ヴェルランドは少し揶揄ってやろうと大袈裟に尋ねてみる。

「え?、えっと、あれですよね。知ってます!ぐーぐースー。そうそう。旅のお供ですもんね」

あからさまに嘘を吐くリーリエに、ヴェルランドは少々呆れた様子で首を横に振る。

「王国の姫君もここまで世間知らずとなると厳しいな…」

「し、失礼ね!仕方ないでしょう、外の世界に出るのはこれが初めてなんですから!」

「何故、お前が威張る…」

「威張ってません!」

「威張っているだろう」

「威張ってなんか!」


「はいはい。喧嘩しない。喧嘩しない。」


突然二人の前に姿を現したリヒトにリーリエはわかりやすく「うわっ!」っと声を上げる。

「んな、驚く事ねぇだろ…」

「い、いえ、あ、貴方に驚いたのでは無くて…」

リーリエはリヒトの後ろの方へと視線を送ると、恐怖に怯えた表情で何かを指差す。

「り、リヒトさん…。これは?」

「んあ?、あぁ、そうか。お前さんは初めてなのか」

リヒトはどこか納得した様子で笑うと、背後にいた大きな鳥獣の背中を撫でてやる。

「こいつはグーグースのグリだ。あー、グーグースってのはコイツらの名称みてぇなもんだ。主に移動様に重宝する奴らでな。見かけによらず温厚で賢いんだぜ?」

リヒトはそう言うと慣れた手つきでグーグースをヴェルランドの前へと誘導する。

「で?、お前グーグースなんて乗れんのかよ?」

そもそも、グーグースに乗るにはそれなりの訓練が必要である。ゼロ部隊の同期といえど彼がこの鳥獣に乗っているところは見たことがない。

「幼い頃、庭先で飼っていた事がある。その時父に教わった。問題ない」

「はぁ?お前ん家って貴族か何かか?今の時代ならまだしも、大昔にこんな鳥獣飼ってんの牧場か、モノ好きのコレクターくらいだったぞ」

リヒトの反応にヴェルランドはわかりやすく顔を顰める。

「大昔ではないがヴァイスハイト家は元々貴族だ。それに加え父はシリウス有数の生物学者だった。故に幼い頃は多くの生き物に囲まれて育った。それだけだ」

意外なヴェルランドの過去にリヒトは理解が追いつかないと言った表情で自身の顎髭に触れる。

「えー要するに、お前の一族はそれなりに華麗な一族で、お前はその華麗な一族のご子息ってことか、、?いやいや、待て待て意味わかんねぇよ。そもそもそんな華麗な一族出身のお前が何でゼロ部隊なんて泥臭い部署に居たんだよ。普通そう言う奴らはもっと華のある役職に就くだろうが」

どこか混乱した様子で、捲し立てるリヒトを他所にリーリエは興味津々でグーグースに触れようとする。しかし、グーグースはそれに驚いたのかその場で羽をバサバサとバタつかせた。

「おっと、突然触ったらダメだ。グーグースは温厚ではあるが気位の高い種族だ。ちゃんと順序を踏まないと背中に乗ることはおろか、触らせてもくれなくなるぞ」

リヒトの忠告にリーリエは素直に「ごめんなさい」と謝る。

「まぁ、お前の過去なんてどうでもいいけどよ。そろそろ行ったほうがいいぜ。俺の情報筋によれば今晩、再び捜索が開始されるらしい」

「今晩、随分と早いな…。それほど必死と言うことか」

どこか交戦的に笑うヴェルランドにリーリエは今後の行き先が不安になる。

「まぁ、だからさっさと行け。ここからだと、プロキオンか?気ぃつけろよ。あそこはシリウスとベッタリの国だからな、それにー」

「プロキオンへは寄らない」

ヴェルランドはリーリエはにグーグースへの乗り方を教えながら、リヒトへと言葉を返す。

「はぁ?、プロキオンへ行かないだと?あそこを通らないんだったらどこへ行くんだよ」

「それは機密事項だ。お前に知られれば、いざという時危険だからな…」

ヴェルランドはようやくリーリエをグーグースへと乗せると自身もその後ろへと跨った。

突然、身体が密着した事にリーリエは驚くが、「すまないが、我慢してくれ」というヴェルランドの一言に素直に頷く。

「フン、所詮俺も敵ってことか」

リヒトはそんな二人を見てどこか嫌味ったらしく呟くと、さっさと行けと両手を振る。

「敵を撹乱するには、まず味方からー。そう教えてくれたのはお前だった気がするんだが?」

「ヘイヘイ。そうでしたね。まぁ気ぃつけて。くれぐれもー」



死んでくれるなよー。