こっちを向いて、ヴェルランド。


「リヒトさん、お待たせしました!」

リーリエはリヒトの前に嬉しそうに姿を現すと数着の服を作業台へと並べていく。

「お、随分と早かったじゃねぇか、もっと時間かかると思ってたぜ…って、お前さんそれドレスばっかじゃねぇか…、今から逃げるんだぞ…」

リヒトは作業台に並べられた洋服を眺めながら腕を組む。

「いいでは無いですか。コーディネートしてくださるのでしょう?私は好きなお洋服を選んだまでです」

「だからって、これはちょいと無理があるぞ…。おいヴェルランド、お前もそう思うだろ?」

リヒトの問いかけにヴェルランドは何やら思案する。

「合わせ方によるな。例えばこう言ったレース生地のものであれば、上に地味な羽織ものを羽織ればそう目立つ事はない」

ヴェルランドはそう言うと目に入った幾つかの羽織ものを作業台へと並べていく。

「まぁ、貴方って意外とセンスがいいのね。私これなら着てもいいわ」

「おいおい、ちょっと待て。んな長い丈のドレス追われたら大変だぞ…。もっと動きやすいパンツスタイルにした方がいいんじゃねぇのか?」

リヒトは納得いかない様子で反論する。

「パンツスタイルなんて嫌。せっかくなら可愛いお洋服がいいです」

「これからパーティに行くわけじゃねぇんだぞ。カノープスは今戦場だ。砲弾が飛び交う中、んな格好してたら逃げ遅れちまうぞ」

リヒトの忠告に、リーリエの瞳が揺れる。

「それに、もし怪我でもしてみろ、せっかくの白色がー」

「知っています…。だからこそ最後くらいは可愛いお洋服を着ていたいのです」

「最後くらいって、お前さんな…」

リーリエの言葉にリヒトは思わず黙り込んでしまう。

「リヒトさん、お願いです。私、ヴェルランドがコーディネートして下さったこの格好がいいです」

三人の間に暫しの沈黙が流れる。ヴェルランドは何も言うまいと腕を組んだまま二人の成り行きを見守っている。

「……あー、わかったよ、わかった。別に格好はあんたらの勝手だ。好きにしな」

二人の沈黙に根負けしたリヒトは、ヴェルランドがコーディネートした洋服をリーリエへと手渡すと試着室の場所を指差す。

「ありがとうございます!早速着替えてきますね!」

リーリエは嬉しそうにそう言うと、試着室のある方へと姿を消した。

リヒトは試着室に入ったリーリエを見届けると、盛大にため息を吐いてヴェルランドを睨みつける。

「お前って奴は悪い男だな…」

「何の話だ」

ヴェルランドは相変わらず腕を組んだまま首を傾げる。

「国に送り届けるなんて嘘吐きやがって」

「嘘では無い。本当の事だ」

「本当の事なら尚更タチが悪いな。お前はあの子を見殺しにする気か?」

元ゼロ部隊の人間であれば、戦場の惨さをよくわかっているはず、それなのにそんな戦場へと女を送り届けるなど到底常人には理解ができない。

「私は彼女の望みを聞いてやっただけだ」

「目の前であの娘がバラバラに吹っ飛んでもいいのか?」

リヒトの質問にヴェルランドは視線を逸らす。

「いいか悪いかは別として、彼女の望みは国へと帰る事。その後どうなるかは私の知ったことでは無い…」

「それは元クイーンハウンドとしての回答か?それともお前自身の回答か?」

リヒトの問いかけにヴェルランドは黙り込む。今更そんな事を聞かれても困ってしまう。

今ここにいるのは人の心を失った化け物。

人を殺すことしか能の無い哀れな個体。

そんな唯の個体に、彼女の生死について問われても分からない。

分からないのだー。

リヒトはそんなヴェルランドを見て、少し悲しそうに彼の肩を叩く。

「悪りぃ。冗談だよ」

昔のお前なら、直ぐに「これは俺の判断だ」って言ってたからよー。

(少し、試したくなっちまった…)