こっちを向いて、ヴェルランド。

「え?!、リヒトさんに会うんですか?」

リーリエがようやく目を覚ましたのは、太陽が随分と高く上がった頃であった。

「あぁ、今の我々にはカノープスに向かうまでの十分な食料と武器がない…。昨晩の様にゼロ部隊が襲ってこないとも限らない。それにお前の服は少々目立ちすぎる」

ヴェルランドの指摘にリーリエは両手を広げて自身の服装を不思議そうに見つめる。

「これのどこが目立つのです?我が一族に代々伝わる格式高い礼服ですが…」

「それではカノープスから来たエルフの一族ですと周りに宣言している様なモノだ」

それに、彼女の美しさは少し人間離れしている。変に目立つ格好はできるだけ避けたい。

「服装を変えるのは構いませんが、そもそもリヒトさんは武器やら服やら売ってらっしゃるのですか?」

「それなら問題ない…、やつの裏の顔は武器商人。普段は食料品を売り捌いているが、常連客には武器から服から何でも売っている」

ヴェルランドは腕を組んで答える。

「随分とお詳しいのですね」

「昔からの仲だからな…。もう随分と顔を合わせてはいないが…」

リヒトと最後に顔をあわせたのは、ヴェルランドがあの屋敷に逃げ込んでから一度きりだけである。

当時、リリィ王女を失ったショックからヴェルランドはかなり荒れていた。それだけならともかく、当初は魔獣化をコントロールできず、リゲルの村人を襲った経緯もあって、できるだけ人に会う事を避けていた。

お陰でリゲルの村人には忌み嫌われ、屋敷の地下室から出ることが難しくなった訳だが、今のヴェルランドにとってはもう過去の話である。

「リヒトとは元ゼロ部隊の同期だ…奴なら色々と協力してくれるかもしれない」

「…リヒトさんも元ゼロ部隊」

リーリエはリヒトの顔を思い浮かべる。確かにどこか近寄りがたい雰囲気の男だった。

「安心しろ。奴はそれなりに信頼のできる男だ…。先日カペラ村に来たと言うことは明日の朝には再び荷物を持ってこのリゲルへとやってくる。それまで暫しの休息だ…」

「ま、待って下さい!カノープスの戦況は一刻を争います!今すぐにでも向かわなくてはー!」

「落ち着け、策を無くして向かう者は必ず敵の剣に倒れる。昔からゼロ部隊で言われてきた言葉だ。焦る気持ちはわかるが今は待て。明日の朝、準備を整えてからでも遅くはない」

ヴェルランドの言葉にリーリエは、黙り込む。その表情はどこか不安に埋もれ今にも泣き出しそうだ。

「…お前の気持ちはわかる。だが、無事送り届けてほしければ、もう少し辛抱してくれ。頼む」

ヴェルランドの訴えにリーリエは一つ溜息を吐くと数秒考えた上で「…わかりました」と小さな声で呟いた。

ようやく頷いてくれたリーリエにヴェルランドは優しく微笑む。

「よし。そうと決まれば私は何か口にできるものを買ってこよう。お前はここで待っていろ」

「私も行きます!」

「駄目だ。先ほども言った様にお前は目立ちすぎる」

「でも…」

「変に目立てば、噂が立つ。噂はいずれ独り歩きし、容易に王国シリウスにいるダンゼルの耳に入る。そうすれば昨晩の様にゼロ部隊に追われ、カノープスへの到着が遅くなってしまう。私が何を言いたいかわかるか?」

「はい…、もちろんです」

リーリエは静かに頷く。先程からヴェルランドには否定されてばかりだ。

しゅんと俯いてしまったリーリエを見てヴェルランドは一つ咳払いをする。

「花は好きか?」

「え、えぇ。好きですが…」

唐突な質問にリーリエは不思議そうに顔を上げる。

「そうか…。承知した」

ヴェルランドは一言そう呟くと、何か一人納得した様子で部屋を出て行った。

(一体何なのかしら…?)