「大丈夫か。予備電源が何かしらの理由で故障したようだ…、これから原因を探るが…」
「…」
「おい。聞いているのか?」
「…」
予備電源が何故か壊れていることに気がついたヴェルランドは、リーリエの様子を確認しに上階の彼女の部屋へと訪れていた。しかし、先程から声をかけるも一向に返答がない。
「入るぞ…。」
一言、遠慮気味にそう告げると、ヴェルランドは銃を構えて室内へと侵入する。
だが、室内は既にも抜けの殻。リーリエの姿は見当たらず彼女が居た痕跡だけが残されていた。
「広間にでも言ったのか?」
ヴェルランドがそう思った時、屋敷の外から何者かの自動式荷車が発車する音が響く。慌てて窓から外を確認すると、そこには数名の男達がリーリエを連れ出す姿が目に入った。
(あの黒服…。まさかゼロ部隊か?)
ヴェルランドは分かりやすく顔を顰める。
(だが、何故彼女がゼロ部隊に?)
王国シリウスのゼロ部隊は国王の直下に位置している機密部隊だ。普段は緊急の要件などが無い限りは事務方に徹している訳だがー。
(なるほど。やはり、あの女はダンゼルの【お気に入り】と言うことか…)
ヴェルランドは今は亡きリリィ王女の姿を思い浮かべる。二人はあまりにも似ている。いや、似過ぎている。
「さて、どうしたものか…」
ヴェルランドは小さく溜息を吐くと、壁に背中を預ける。正直な話、彼女とは赤の他人である。このまま何もせず放っておけば何一つ問題は起こらない。
そちらの方が自分にとっては好都合だ。今更ダンゼルとやり合おうとも思ってはいない。だが、彼女はどうだろうか?
ダンゼルの元へ行けば彼女は確実にボロ雑巾の様に扱われて最後は川に捨てられてしまう。残酷かもしれないがダンゼルはそう言う男だ。
ヴェルランドはもう一度薄暗い窓の外を見つめる。空にはぼんやりと月が姿を現わし夜道を優しく照らしている。
(三日月…。無理では無いが…)
一瞬、彼女を救いに行くシナリオが思い浮かぶが、すぐに頭を横に振る。
駄目だー。
今外に出れば、彼女にも、ゼロ部隊の人間にもバレてしまう。
遥か昔、ダンゼルに掛けられた魔法。
それは若きヴェルランドを一夜にして凶暴な狼へと変えてしまった。お陰で月が顔を出している間は屋敷の外には出られない。
(どうする…)
満月でなければ辛うじて自我は保てるが、それもかなりのエネルギーを消耗する。
ヴェルランドは再び窓の外を見つめる。既にゼロ部隊の姿は見えなくなっていた。
「…」
(このご恩は決して忘れません…)
その時、何故か頭の片隅で必死に礼を述べるリーリエの声が反響した。
「…」
これだから女は嫌いなんだ。
ヴェルランドは諦めた様に溜息を吐くと、黒服の男達を追うため屋敷の外へと飛び出した。


