こっちを向いて、ヴェルランド。

屋敷の配電盤は、最初にヴェルランドと遭遇した大広間の扉を抜けた地下室に存在していた。

「やはり、雷が落ちたようだな…」

ヴェルランドはそう言うと、手慣れた手つきで配電盤にある幾つかのレバーをあげていく。

「先ほど、とても大きな音がしましたからそのせいかと…」

「ああ、そうだろうな。ありがたい事に電線は無事な様だ。よし、これでいいだろう」

一体何をしているのか理解はできないが、どうやら主電源の方が復旧した様だ。リーリエは少しホッとした様子で胸を撫で下ろす。

「雷の音が怖いなら、暫くここに居るといい」

「ここに…?」

「地下室にはさほど雷の音は響かない」

ヴェルランドの言わんとしている事を理解したリーリエは意外そうに瞳をパチクリとさせる。

「で、ですが…、宜しいのですか?」

今までの彼の状況を見るに、彼はこの地下室を生活の拠点にしている様である。そんな彼のプライベート空間に入り込んでいいモノだろうか?

「雷鳴轟く中、一人でいたいと言うなら無理にとは言わないが…?」

「ぜ、是非ともここに居させてください…」

その返答にヴェルランドは苦笑すると、彼女を一つの部屋へと案内する。

「…ここは?」

「私が寝泊まりしている部屋だ」

「貴方のお部屋…」

リーリエは物珍しそうに室内の中をぐるりと見渡す。

「そこに座っていろ。今何か温かい物を入れてやる…」

ヴェルランドはそう言うと、慣れた手つきでカップにコーヒーを注いでいく。リーリエはそんなヴェルランドの背中を静かに見守る。

「怖いのか…」

「え…?」

唐突に呟かれた言葉にリーリエは、小首を傾げる。

「雷は苦手か…?」

「そ、そうですね…。あまり得意では…」

「そうか…。やはり似ているな」

一体、何に似ているというのだろうか。

「砂糖はどうする?」

「欲しいです」

「いくつ?」

「角砂糖なら二つくらいで…」

「了解」

ヴェルランドはそう返事を返すと、リーリエの前にカップを置いた。

「口に合うかわからないが、飲めば少しは気が紛れるはずだ…」

「ありがとうございます…」

リーリエは出されたカップに口をつけると、ゆっくりとそれを味合う。

「おいしい…」

ここにきてから、ホッと出来る瞬間が来るとは夢にも思わなかった。

「嵐は直に去る。それまで自由に過ごすといい…」

ヴェルランドはそう告げると、自身のベッドへと体を横たえ近くにあった読みかけの本に手を伸ばした。

「何を読まれるのですか?」

「古い推理小説だ…」

「推理小説…」

「読んでみるか?そこの棚に全巻揃っている」

ヴェルランドはそう言うと一つの本棚を指差した。本棚にはビッシリと本が並べられており、中には植物図鑑らしき物まで置いてある。

「読書、お好きなんですか?」

「私は、そうでもない」

「私は?」

疑問符を浮かべるリーリエにヴェルランドは、小さく咳払いをする。

「暇つぶしだ…、他にやる事もないしな」

「あぁ、なるほど…」

そんなに暇なのかと問いたくなったが、何か事情があるのだろう。それ以上は質問する事を辞めた。

(きっと、誰かが好きだった趣味なのかもしれない…)