リーリエが再び目を覚ましたのは、子供達の襲来を受けた日の夜のことであった。
「嵐かしら…」
勢いよくガラス窓を揺らす風の音に目を覚ましたリーリエは毛布を深く被る。薄暗い部屋の中でゴウゴウと唸る風の音は恐怖そのものだ。
リーリエは天井に取り付けられた小ぶりのシャンデリアを見つめる。
「電気…、つけてもいいかしら?」
しかし、屋敷の物には触るなと口酸っぱく言われている。付けた瞬間、どこからともなくあの男が飛んでくるに違いない。
リーリエは仕方なく瞼を閉じる。いっそのことこのまま朝まで眠ってしまった方が良さそうである。
だが、そんなリーリエの思いも虚しく屋敷の中に一際大きな雷の音が響きわたった。
「!?」
リーリエはあまりにも大きなその音に、肩を振るわす。今のは確実に庭先に落ちたに違いない。
(怖い…)
元々、雷が苦手なリーリエにとって見知らぬ屋敷で一人ぼっちというのは、かなり耐え難い。いっその事電気をつけてヴェルランドに来てもらった方が良いのではないだろうか。
リーリエはそう思い直すと、ベッドから立ち上がりシャンデリアのスイッチを入れる。
パチン!と音を立ててその小さなシャンデリアは光を放つ。
良かった。ありがたいことに電気は通っているようだ。室内は瞬く間に明るくなるとリーリエの不安感を払拭した。
「ふぅ…、これならまだ」
しかし、ホッとしたのも束の間再び大きな雷が屋敷を襲う。一際大きな音が鳴り響くと次の瞬間、室内が暗闇に包まれる。
「う、うそ」
またもや暗転してしまった世界に、いよいよリーリエの動機が激しくなる。
(怖い…!怖い…!!)
リーリエはその場に蹲ると、瞳を閉じる。あの晩もこうだった。王国シリウスの兵に追いかけ回され、何度も転倒してはこの屋敷に辿り着いたあの日。
あの女を追え!!
誰もいないはずの屋敷に、今でもあの兵士達の怒号が聞こえてくる。
(お願い…、もう、ほっといて…)
絶対に逃すな!
(お願いだから…)
ダンゼル様の命令だ!
(お願いよ…)
リーリエは瞼から大粒の涙を流す。何故こんなことになってしまったのか…、何故平和に暮らすことがこんなにも難しいことなのか…。
リーリエは部屋の片隅で肩を震わせながらシクシクと涙を流す。
その時だったー。
「泣いているのか?」
部屋の外から、優しくも少し困惑しているようなヴェルランドの声が響く。
「…」
驚いたリーリエは慌てて口元を抑えるが、鼻を啜る音だけはどうしても抑えることができない。
「扉を、開けるぞ…」
「嫌!だめです!来ないで!」
リーリエは、予想外の言葉に慌てて声を張り上げる。ただでさえ、こんなところ見られるのは恥ずかしくて仕方がない。
「では、何故泣いている…?」
「部屋の電気が落ちてしまって…、その…、暗くて…」
リーリエは涙を拭きながらなんとか答える。しかし、どうしても声が震えてしまう。
「なるほど、それで怖くなったか…」
「こ、怖くなんか!」
「安心しろ。電気は直に復旧される。そろそろ予備電気装置が発動する頃だ」
すると、室内に再び明かりが灯った。どうやら彼の話は本当らしい。
「私は今から、配電盤の確認をしてくる…、もし暇なら着いてくるといい」
ヴェルランドの提案に、リーリエは少し驚く。
「い、一緒に行っても宜しいのですか…?」
「フン、この部屋に一人で残りたいというなら話は別だが…?」
リーリエはその言葉に、慌てて扉を開けると少し驚いた様子のヴェルランドと視線が合う。
「是非、ご一緒させてください!」


