ようやく検問所を抜けたリヒトは舗装された道路を淡々と進んでいく。
王国というにはあまりに不釣り合いな街並みは、どちらかというと大都市という雰囲気に近い。
古い城などは一つもなく、周囲には近未来的なビル群が立ち並び、人々は皆近代的な服装に身を包んでいる。
王国シリウスはその強力な軍事力と、技術力で遥か太古の昔から栄えていた。当時王国を統治していたアシデュ王は大層立派な方で、全世界は王国シリウスを中心として平和と均衡が保たれていた。しかし、その王が病に倒れ、息子であるダンゼルが後を継いでからというもの、世界は混乱に陥った。何でもこのダンゼルは国王陛下の本当の御子息ではなく、国王陛下が晩年に娶った未亡人の連れ子だという。当然経済のことなど何も知らないダンゼルは私利私欲の為に優秀な軍部を解体し、自らの命令にのみ従う独裁政権を確立した。お陰で世界は混乱し今も尚各地で戦争が続いている。
リヒトは自動式荷車を運転しながら、先ほどの兵士が話していた捕虜の話を思い返す。
***
「名前だよ。その女の名前が女王陛下にそっくりなのさー。」
「名前だあ?一体なんて名前だよ」
「リーリエ、ギモーヴ。な?似てるだろ?」
確か女王の本名は、リリィエル、ギモーヴェル。皆愛称を込めてリリィと呼んでいるが本名は意外と長いことで有名だ。
「まぁ、似てるっちゃ似てるけどよ…、ん?待てよ…」
リヒトはその時、三日前にパンとベーコンと卵を売った女の姿を思い出す。確かあの女も…、
リーリエー。
***
リヒトはまさかなと頭を振る。あの屋敷には十年前からヴェルランドが引き篭もっている。それなりの付き合いだからよく知っているが、ヴェルランドは見知らぬ女を匿ってやるような男ではない。
「だってよ、あいつは元ゼロ部隊のエリート様だぜ?んなことある訳ねぇよな…」
彼が信じるのは女王のみ、それ以外は唯の駒に過ぎない。
「この俺様だって、ダチになるのに時間がかかったしな…」
王国直属の機密部隊、通称ゼロ部隊ー。
暗殺、監視、護衛、不都合な情報の抹消。そう言った王国の後ろ暗い部分を担うゼロ部隊は、全世界から選りすぐりのエリートが集められる特殊な部隊で、彼らの活躍無しには王国シリウスの発展はありえなかった。
ヴェルランドとリヒトはここの同期である。二人は様々な任務でツーマンセルを組むことが多く、その理由としてヴェルランドの気難しい性格が関係していた。出会った当初の彼は酷く機械的な性格をしていて、優秀ではあるが、どこか融通の効かない男であった。当然、それとは真反対にいるリヒトとは性格も仕事のスタイルも違ったが、何故か時間が経つうちに二人は仲の良い同僚となった。
そんな友人が、女王の護衛についたのは二人が出会ってしばらくのことだったー。
***
「あぁ?!女王の護衛だと?!」
「大声を出すな…、正式にはまだ女王ではない。なんでもダンゼルが、どこぞの村から連れてきたらしい…。それの護衛を頼まれた」
ヴェルランドの言葉にリヒトはわかりやすく頭を抑える。
「おいおい、それってなんか穏やかじゃねぇ話だな…。まさか無理矢理連れてきたんじゃねぇだろうな?あのクソ国王…」
わざわざ、それもゼロ部隊の人間を護衛につけるのだ、きっと何か後ろ暗い事情があるに違いない。
「さぁな…、そんなことはどうでもいい…」
ヴェルランドは退屈そうに窓の外を見つめる。
「んだよ、やけに不満そうだな」
「護衛だぞ?、しかも女の。退屈でしかないだろ…」
ヴェルランドの反応にリヒトは苦笑する。
「まぁ確かにお前好みの仕事じゃねぇのはわかる。お気に入りの銃も使えないしな。でもよ、その護衛対象がとんでもなく美人だったら最高じゃねぇか!」
「馬鹿を言うな。ダンゼルの女に手を出せば即刻処刑だ」
***
酷く憂鬱そうな友人の言葉が、ついこの間のことのように思い返される。
リヒトは雨降る道路を見つめると長いため息を吐く。詳しいことは知らないが二十年前そう言って護衛の仕事に出ていったヴェルランドとはあれから一度も顔を合わせてはいない。彼との繋がりは定期的にリヒトの携帯に送られてくる食料品や日用品の要求のみである。
「一体…、どうなっちまってんだ…」
顔の見せない友、
女王に似た女、
逃げた捕虜、
まさか、変なことに巻き込まれちゃいねぇだろうな…、ヴェルランド。
王国というにはあまりに不釣り合いな街並みは、どちらかというと大都市という雰囲気に近い。
古い城などは一つもなく、周囲には近未来的なビル群が立ち並び、人々は皆近代的な服装に身を包んでいる。
王国シリウスはその強力な軍事力と、技術力で遥か太古の昔から栄えていた。当時王国を統治していたアシデュ王は大層立派な方で、全世界は王国シリウスを中心として平和と均衡が保たれていた。しかし、その王が病に倒れ、息子であるダンゼルが後を継いでからというもの、世界は混乱に陥った。何でもこのダンゼルは国王陛下の本当の御子息ではなく、国王陛下が晩年に娶った未亡人の連れ子だという。当然経済のことなど何も知らないダンゼルは私利私欲の為に優秀な軍部を解体し、自らの命令にのみ従う独裁政権を確立した。お陰で世界は混乱し今も尚各地で戦争が続いている。
リヒトは自動式荷車を運転しながら、先ほどの兵士が話していた捕虜の話を思い返す。
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「名前だよ。その女の名前が女王陛下にそっくりなのさー。」
「名前だあ?一体なんて名前だよ」
「リーリエ、ギモーヴ。な?似てるだろ?」
確か女王の本名は、リリィエル、ギモーヴェル。皆愛称を込めてリリィと呼んでいるが本名は意外と長いことで有名だ。
「まぁ、似てるっちゃ似てるけどよ…、ん?待てよ…」
リヒトはその時、三日前にパンとベーコンと卵を売った女の姿を思い出す。確かあの女も…、
リーリエー。
***
リヒトはまさかなと頭を振る。あの屋敷には十年前からヴェルランドが引き篭もっている。それなりの付き合いだからよく知っているが、ヴェルランドは見知らぬ女を匿ってやるような男ではない。
「だってよ、あいつは元ゼロ部隊のエリート様だぜ?んなことある訳ねぇよな…」
彼が信じるのは女王のみ、それ以外は唯の駒に過ぎない。
「この俺様だって、ダチになるのに時間がかかったしな…」
王国直属の機密部隊、通称ゼロ部隊ー。
暗殺、監視、護衛、不都合な情報の抹消。そう言った王国の後ろ暗い部分を担うゼロ部隊は、全世界から選りすぐりのエリートが集められる特殊な部隊で、彼らの活躍無しには王国シリウスの発展はありえなかった。
ヴェルランドとリヒトはここの同期である。二人は様々な任務でツーマンセルを組むことが多く、その理由としてヴェルランドの気難しい性格が関係していた。出会った当初の彼は酷く機械的な性格をしていて、優秀ではあるが、どこか融通の効かない男であった。当然、それとは真反対にいるリヒトとは性格も仕事のスタイルも違ったが、何故か時間が経つうちに二人は仲の良い同僚となった。
そんな友人が、女王の護衛についたのは二人が出会ってしばらくのことだったー。
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「あぁ?!女王の護衛だと?!」
「大声を出すな…、正式にはまだ女王ではない。なんでもダンゼルが、どこぞの村から連れてきたらしい…。それの護衛を頼まれた」
ヴェルランドの言葉にリヒトはわかりやすく頭を抑える。
「おいおい、それってなんか穏やかじゃねぇ話だな…。まさか無理矢理連れてきたんじゃねぇだろうな?あのクソ国王…」
わざわざ、それもゼロ部隊の人間を護衛につけるのだ、きっと何か後ろ暗い事情があるに違いない。
「さぁな…、そんなことはどうでもいい…」
ヴェルランドは退屈そうに窓の外を見つめる。
「んだよ、やけに不満そうだな」
「護衛だぞ?、しかも女の。退屈でしかないだろ…」
ヴェルランドの反応にリヒトは苦笑する。
「まぁ確かにお前好みの仕事じゃねぇのはわかる。お気に入りの銃も使えないしな。でもよ、その護衛対象がとんでもなく美人だったら最高じゃねぇか!」
「馬鹿を言うな。ダンゼルの女に手を出せば即刻処刑だ」
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酷く憂鬱そうな友人の言葉が、ついこの間のことのように思い返される。
リヒトは雨降る道路を見つめると長いため息を吐く。詳しいことは知らないが二十年前そう言って護衛の仕事に出ていったヴェルランドとはあれから一度も顔を合わせてはいない。彼との繋がりは定期的にリヒトの携帯に送られてくる食料品や日用品の要求のみである。
「一体…、どうなっちまってんだ…」
顔の見せない友、
女王に似た女、
逃げた捕虜、
まさか、変なことに巻き込まれちゃいねぇだろうな…、ヴェルランド。


