こっちを向いて、ヴェルランド。

リヒトが屋敷を去ると、リーリエはホッと肩を撫で下ろした。

「いやね、こんなに緊張してしまうなんて…」

以前のリーリエであればどんな人とも気さくにコミュニケーションを取ることができた筈なのに、今は何をするにも体が緊張してしまう。

リーリエは小さく深呼吸をすると、再び調理場へと向かおうとする。その時だったー。

「…リヒトか」

突然響いた声に、リーリエは「うわっ!」とわかりやすく声を張り上げる。

「なんだ。騒がしい女だな」

ヴェルランドは小さく溜息を吐くと、幽霊のように足音一つさせずリーリエの側へと近寄る。

「い、いつからそちらに?」

「貴様が扉を閉めて、しばらく呆然としていたあたりからだ…」

「ほぼ最初から…」

リーリエはそう呟くと、慌てて乱れた髪を整える。

「それで、食材は買えたのか?」

「へ…?」

意外な質問にリーリエの口から素っ頓狂な声が漏れ出る。

「食材は買えたのか?」

「え、えぇ。お陰様で…」

もう一度わかりやすく言い直してくれたヴェルランドにリーリエは頷く。まさか、わざわざそんなことを聞く為にここに来たのだろうか?

リーリエは一応買ったものをヴェルランドへと見せるとヴェルランドはわかりやすく顔を顰めた。

「随分と偏った食材だな…」

「ほ、ほっといてください…」

まるで親に叱られたような気分に陥ったリーリエは少し恥ずかしそうにそっぽを向く。

「いや…、貴様には関係のない話だったな…」

「…?」

「雨が止むまでは、調理場の使用を認めよう…」

ヴェルランドはどこか寂しげにそう呟くと、マントを翻してどこかへと姿を消した。

「…変な人」