私の「嫌われ計画」が全部裏目に出ている件

「凜、今日衣装合わせあるから」

朝、席に着くなり想に言われた。

「……衣装合わせ」

「ライブ用の衣装。サイズ確認したいから一緒に来て」

「なんで私が行くんですか」

「マネージャーだから」

「衣装合わせにマネージャーは必要ないのでは」

「意見が欲しい」

「誰の意見が」

「凜の」

即答だった。

「……私のセンスを信用してるんですか」

「してる」

「根拠は」

「勘」

「また勘」

想は涼しい顔でノートを開く。この人は都合が悪くなると「勘」で全部片付ける。

放課後、連れて行かれたのは学校近くの衣装レンタルショップだった。
四人が揃って入店する。店員さんが目を丸くしている。そりゃそうだ。こんな顔面偏差値の高い集団が突然来たら誰でも驚く。

「いらっしゃいませ……! ご予約の如月様ですね!」

「はい。バンドの衣装を」

「はい、こちらへどうぞ!」

テンション高めの店員さんに案内されて、試着室が並ぶ奥のスペースへ。

ラックにずらっと衣装が並んでいる。黒、白、赤、金。どれもステージ映えしそうなデザインだ。

「凜、どれがいいと思う?」

「……私に振りますか、いきなり」

「真っ先に」

四人が一斉にこちらを見る。

プレッシャーが四倍だ。

私はラックを眺めた。バンドのイメージを考える。Silent Crown。静かな王冠。派手すぎず、でも存在感がある。

「黒ベースで、シンプルなやつがいいと思います。あんまりごちゃごちゃしてると、演奏が霞む気がして」

「……なるほど」

朔が静かに頷く。

「それ、私も思ってた」

「じゃあ決まりじゃないですか」

「でも黒一色だと面白くない」

「差し色は?」

「そこを決めたい」

また私に振ってくる。

「……バンド名がSilent Crownなら、金か銀じゃないですか。王冠のイメージで」

「おー! いいじゃん!」

蒼が食いつく。

「黒×金、かっこよくない? ねえ湊!」

「めっちゃいい。俺、金のライン入ったやつ着たい」

「じゃあそれで探してみます」と店員さんが動き始める。

想が私の横に来た。

「凜、センスあるじゃん」

「……普通のことを言っただけです」

「普通のことを、ちゃんと言える人が一番いい」

想はそう言って、ラックの方へ歩いていく。

(……なんでそういうことをさらっと言えるんだ、この人は)

数着候補が出てきて、四人が次々と試着していく。

最初に出てきたのは湊。

黒のジャケットに金のラインが入ったデザイン。背が高いから、ものすごく様になっている。

「どう?」

「似合ってます」

「やった。これにする」

即決だ。迷いがない。

次に朔。

細身のシャツタイプ。金のボタンが縦に並んでいる。シンプルだけど、朔の雰囲気とぴったりだ。

「鷹宮さん、どう?」

「……私に聞きますか」

「意見を求めている」

「似合ってます。すごく」

「……そう」

朔が鏡を確認する。耳が少し赤い気がしたけど、気のせいかもしれない。

蒼はオープンカラーのシャツタイプ。少し遊びがあって、蒼の雰囲気に合っている。

「凜ちゃん! どう?」

「蒼さんらしくて、いいと思います」

「やった! 凜ちゃんにそう言ってもらえると安心する」

「なぜ私の評価が基準になってるんですか」

「なってるんだよ、気づかないうちに」

蒼がにっこり笑う。

最後に想が出てきた。

黒のロングジャケット。金の刺繍が肩から袖にかけて入っている。

全員が、少し静かになった。

「……」

想が鏡を見る。

「どう、凜」

「……」

似合いすぎていて、言葉が一瞬遅れた。

「……とても、似合ってます」

「それだけ?」

「ステージに立つと、すごいことになると思います」

「すごいことって何」

「見てる人が全員、息を呑む感じ」

想がこちらを向いた。

「……それ、褒めてる?」

「事実を言ってます」

想は少し笑った。

さっきとは違う、少し照れたような笑い方だった。

「ありがとう、凜」

「……どういたしまして」

帰り道、湊が私の隣を歩きながら言った。

「凜ちゃん、今日ナチュラルに全員褒めてたね」

「……気づいたら」

「そういうとこだよ」

「そういうとこって何ですか」

「みんなが凜ちゃんのこと好きな理由」

「……」

嫌われようとしているのに、また一個増えてしまったかもしれない。

嫌われ計画は、今日も盛大に失敗した。