いじわる主治医は、私にだけ甘い

食事は桜の間に通してもらい、3人で食べることになった。
前菜から見事な懐石料理だ。

「まず最初にここだけはハッキリさせておきたいんだけどさ」

「何だ?」

「兄さんも冴が好きなの?」

「ああ」

「冴はどうなんだ?」

「……本音を言うと、慶人さんのことは友達みたいに接しやすくて穏やかでそんな風に思ってます。あと」

「あと、なに?」

「慶人さんは不思議な人です。私が居るのにどこか遠くを見てるような、つかめそうで、つかめない。雲とかそんな感じがします。嫌な気分になったらごめんなさい」

「いや、そんなこと無いよ。僕は何だろう、昔からちょっと変わったところがあってね。小さい頃は彩人とは分かれて暮らしてたんだ。海が好きでね。江ノ島にある祖父母宅で育ててもらった」

「そう、兄さんはそういうちょっと勝手なやつだよ。小さい頃の俺は随分寂しいと思ったが、一度こうと決めたら信念を曲げないんだ」

「ふふ、そういうところは今と同じですね」

お酒やメインの肉も出てきた。
きっと特上のものだと、味わえばすぐに分かる。

「離れて暮らしてる間も2人とも医者を目指して、最終的には同じ病院に勤めてるんだから双子ってのは不思議だね。好きになる人が一緒になるのも仕方ないことなのかもしれない」

「だが、兄さん。冴は俺を選んだ」

「いいんだ、俺は見つめるだけの恋でいい。拒まれる度ヒリヒリする気持ちも、悲しみも、愛しさもただそこにあればいいから。彩人、せめてそれだけは許してくれないか」

「ふん、勝手にしろ」

私のせいなのはわかってるんだけど、どうもこの2人は噛み合わなそうで、噛み合っていて。私なんかが気安く口を出していい場面じゃない気もした。

「飯が冷めるな。この話はまた今度」

「明日は強羅にいくが、彩人も来るか?」

「あぁ、明日は休診日だしな」

「冴もそれでいい?」

「うん、3人で強羅行けるの嬉しいよ」

美術館などに行く予定でいたので、司書の冴は学芸員の資格もあり、そういう類の知識を集めるのは大好きなのであった。

「じゃあご馳走様。冴、よく食べたな」

「手術まであと少しだから体力つけとこうね」

「うん。2人ともよろしくね」

「もちろんだ」

「絶対守る」

こうして食事は比較的穏やかなまま、終いとなった。