いじわる主治医は、私にだけ甘い

慶人がオススメの蕎麦屋で食べて、旅館に来た。
道中の川の流れが心地よく、何でもない話で笑ったり、彩人と違い慶人はまるで友人のように話しやすい印象を持った。

「旅館の部屋は別々で取っといた。流石に彩人に申し訳なくてな。僕は君のことを好きだという気持ちは本物だが、無理やりとか困らせたい訳じゃない」

「ありがとうございます。慶人さんのそういう気持ちは本当に嬉しくて力になってます。でも私が好きなのは彩人だから……ごめんなさい」

「って、でもさ。そうやって、チャンチャン、はいジ・エンドにするのはやめてくれよ。僕のなかでは終わってないんだから」

慶人は頬を赤く染めて、潤んだ瞳でどうしてもという感じで、私を見てきた。

この気持ちを私は知っている。

”好き”で”止められない”ものなんだ。

だってそれを私は彩人にいつも向けているんだから。

「君が笑うと嬉しくて、くだらない冗談言うと面白くて、でも胸がツンと痛くなる。ああ、こんなに今一緒にいるのに僕だけの君じゃないって」

「私も慶人さんと過ごす時間は、箱根の清流のように穏やかで、なくしたくないって思ってます」

私、ずるいのかな?
本当に欲しいものはあげられないのに、中途半端に優しくしてしまう自分が残酷にさえ思えた。