いじわる主治医は、私にだけ甘い

車で拾ってもらって彩人たちの家にやってきた。
渋谷区松濤にある、一軒家。
想像にかたくない荘厳な佇まいだった。
入るのさえおこがましい気がする。

「桐ヶ谷様、お帰りなさいませ。花野様、ようこそいらっしゃいました」

「家に帰ると執事がいるのってドラマの世界だけじゃなかったんだ」

「普通だぞ? 色々やってくれる家政婦みたいなもんだ」

「まぁ、弟よ。これは普通では無いんだ。世間一般には家政婦すらいないのが普通だ」

「そうそう、慶人さんよく分かってくれる!」

「とりあえずは、僕たちしかいないし緊張など不要だからあがって」

「ありがとうございます」

そうして桐ヶ谷家に足を踏み入れた。
長い廊下からはよく手入れされた広い庭園や池が見える

「なんか見た事ないくらい大きく美しい鯉がいる」

「ハハ、なんか小さい頃からいたな。何歳だよ、あいつ」

「僕が小さい頃もいた」

「長生きな鯉でございますね。ごく稀に100年生きる個体もいるそうですが、余程、家が心地いいのでしょうか」

「だってさ、冴も負けじと長生きするように俺らが守るからな」

「あ、ありがとう」

「とにかくお茶でもいれましょうね」

「さとじい、ありがとう」

「さとじい?!」

「恩川聡(おんかわさとし)と申しますゆえ、そのように呼ばれております」

「じいって年齢ではないですよ」

「ありがたいですね」

「じいはじいだ」

「そうだね」

「えー」

桐ヶ谷家の文化の違いを一気に見せつけられた気分。
恩川さんも本当にお兄さんのように綺麗に整った顔立ちだし。
ほんと、別世界に来ちゃった。