少年吸血鬼はハンターの未亡人に愛を捧げる

アルフォンスが突然ナタリアを訪ねて来た数日後、エリーゼとギルバートの子供は無事に男の子が産まれた。

本邸を出るタイミングを失ったナタリアはそのままイェーガー家に滞在して、家を片付けたり、結婚生活で親しくなった友人達にそれとなく挨拶をしたりして過ごした。

エリーゼは子供の世話と休養のため引きこもっており、ギルバートもまたどこかへ出掛けて一中家におらず、義母のアリシアは足が悪い。

そうなると客人の対応や決定事項などで、誰か一人は動きが取れる人間が家に居なくてはならなかった。

それに、ギルバートもエリーゼも不快すぎる人物だが、産まれたばかりの子供の弱々しい様子を見ていると、強烈な庇護欲を掻き立てられた。

エリーゼが産後に気弱になっていたこともあり、いざ別荘に戻ろうと思うと、この小さな赤ちゃんがもう自分とは無関係の人間になっていくのかと、悲しくてたまらなかった。

(そういえば、バンパイアは長く生きるのよね? 全ての人々が先に死んでいくのよね?)

五百年生きているというアルフォンスの父親のことを考えてみると、自分だったら耐えられないと思った。


一日、又一日と滞在を引き延ばしていたある夜。

ナタリアが新月に輝く満天の星空を見ながらお茶を飲んでいると、黒い霧がベランダに現れ、霧はアルフォンスの姿になった。

「アルフォンス!」

ナタリアが窓を開けると、人の姿のアルフォンスが音もなく入ってきた。

(足音がするときもあるのよね⋯⋯)と、浮き立った気持ちでアルフォンスを迎える。

「こんばんは、久しぶりね」

「ああ。あんなに言ってたから、あんたの方がフォグリア家にくるかと思っていたのに全然来ないから、どうしているかと思って。まだここにいたんだな⋯⋯」

ナタリアはアルフォンスの素直さに、ぎゅっと抱き寄せたいような可愛さを感じて微笑んだ。

「ギルバートとエリーゼの子供が産まれて面倒を見るのを手伝っているの」

「ふーん」

「ねえ、私がどこにいるかわからなかったのね? この前の夜、私が危ないことはどうやって知ったの?」

 ナタリアが聞くと、アルフォンスは言葉に詰まって俯いてしまう。

「ルカに聞いた」

「えっ、ルカに? どうしてルカが⋯⋯」ナタリアは、ギルバートに執拗に監視されていたことと重ね合わせて不愉快な気持ちになった。

「ああ、ナタリアを港に送ったときに」

「ええ、あのままイェーガー家に林檎の木を見に戻ったのよ、あの時は偶然だったの?」

「ああ」

 ナタリアは、バンパイアという不可思議な生き物が、身近に潜み、その上、近所の雑貨屋で買い物をするという事実の面白さに、目を丸くした。

「そしたらルカが、多分イェーガー家へ戻るんだろうと教えてくれた。前の夜にフォグリア家に来たハンター一族の妻が、翌日ハンターの家へ戻るんだ。
 イェーガー家に、フォグリア家の事を疑わさせるようなことになってはいけない。だから様子を見に来たんだ」

「まあ、それで私は偶然危ないところを助けてもらえたのね」

「そうなるな。だが危ないところというなら何でナタリアはあの男を家に入れてしまったんだ? 知り合いだったのか?」

 アルフォンスが不機嫌そうに訊いた。

「⋯⋯あっ⋯⋯!」

「どうしたんだ?」訝しむアルフォンスを、ナタリアは手で制してじっと考え込んだ。

(あの男は⋯⋯私が眠っているところを襲ってきたわ)

「アルフォンス、そうよ私あの男を家に入れたりしていないわ」

「なんだって⁉︎」

「あなたが招かれなければ入れないと言ってから、すごく違和感を感じていたの」

 これはどういうことだろうかとナタリアが考え込んでいる間、アルフォンスも険しい表情で何かを考えているようだった。そして「内通者がいるんだ!」と言った。