遅かれ、早かれ、恋になりまして。




課長は私のデスクの横に軽く寄りかかるように立ちながら、「明日の件なんだけど」と話を続ける。


「ロビーでクライアントのお出迎え、お願いしてもいい?」

「あ、はい。わかりました」

「ありがとう。たぶん10時前には到着すると思うから」


明日のプレゼン相手。今回の大型案件のクライアントだ。自然と少し緊張が戻る。課長は、「じゃ、よろしく」とだけ言い残し、自分のデスクへ戻っていく。


「先輩、緊張してます?」


隣のデスクから、クールな声が聞こえてきて、思わずドキッと肩があがった。


「そりゃ、緊張してるよ~…だから、意地悪言わないでね?」


むっとした顔で睨み返すと、八木くんは口元を押さえてフッと笑った。


八木恭介(やぎきょうすけ)
私と同じ広告・制作系営業部に所属していて、私の隣のデスクが彼のテリトリーだ。

私の3つ年下である彼は、普段はどこか掴みどころがない。ぼんやりしているようで、何を考えているのか分からない瞬間も多いけれど、意外と根性があって営業には向いていると思う。

詰められる場面では妙に粘るし、逃げない。新人らしい勢いと、変に折れない頑固さがあって、見ていると時々こっちが焦るくらいだ。

今回の新規取引先の担当が、私と課長と八木くんの3人。

課長がいてくれる安心感は確かにある。でも同時に、自分がどれだけついていけるのかという不安も、同じくらい重くのしかかってくる。




……考えただけで、緊張して吐きそう。


そんな本音はもちろん口には出せなくて、私は資料ファイルを開き直し、わざと大きめにページをめくった。