遅かれ、早かれ、恋になりまして。




有馬さんの仕草ひとつひとつに、どうしてこんなに目を奪われるんだろう。

手すりを持つ指先。少しだけ伏せられる視線。ネクタイを整える何気ない動作。どれも大げさなわけじゃない。ただ自然にしているだけなのに、妙に色気みたいなものを感じてしまう。

色気、という言葉が正しいのかは分からない。でも、ただかっこいいだけでは片付けられない何かがあった。

所作が綺麗、というのもあると思う。無駄な動きがなくて、一つ一つが静かで落ち着いている。急いでいる感じも、気取っている感じもないのに、なぜか視線を引き寄せる。

……なんなんだろう、この人。本当に自分でも分からなくなってくる。


『次は――』


車内アナウンスが流れる。はっとして顔を上げる。私の降りる駅だった。

……もう?

気づけば、15分が過ぎていた。長いようで、一瞬だった。

会話なんてほとんどしていない。ただ同じ空間で、同じ時間を過ごしていただけ。それなのに、どうしてこんなに心が忙しかったんだろう。

有馬さんが自然に少し横へずれる。私が降りやすいようにスペースを空けてくれたのだと、すぐ分かった。そのさりげなさにまた胸が締めつけられる。私は小さく息を吸って立ち上がった。


「ありがとうございました」


何に対するありがとうなのか、自分でも分からなかった。AirPodsを返してくれたこと。席を譲ってくれたこと。優しくしてくれたこと。その全部かもしれない。有馬さんは私を見下ろして、小さく頷いた。