遅かれ、早かれ、恋になりまして。




……やっぱり違う。電車で会う有馬さんと、仕事中の有馬さん。何かが、明確に違う。

仕事中はもっと距離があった。淡々としていて、冷静で、隙がなくて。ちゃんと営業の顔をしていた。

でも今、こうして朝の電車で会う有馬さんは、それよりずっと柔らかい。空気の温度が違う。話し方も、視線も、立っている雰囲気も。
なのに、どこがどう違うのか上手く説明できない。ただ、同じ人なのに別の一面を見てしまったような感覚だけが残る。


「明石さん、次ですよね?」


不意に、上から声が降ってきた。私ははっとして顔を上げる。有馬さんが少しだけ身を屈めながら、私を見ていた。距離が近い。その瞬間、また心臓が跳ねる。


「……はい」


なんとか返事をする。すると有馬さんは小さく頷いた。たったそれだけなのに、その仕草ひとつでまた胸がざわつく。

……なんでこんなにドキドキするんだろう。

最初は単純なことだと思っていた。顔が綺麗だから。雰囲気が独特だから。目を引くだけ。それだけだと思っていた。でも、もうそれだけじゃない気がする。

ちゃんと覚えていてくれたこと。靴擦れに気づいてくれたこと。ハンカチに包んでAirPodsを持ってきてくれたこと。当たり前みたいに席へ座らせてくれたこと。そういう一つ一つが、全部胸に残っている。

ただ顔がいいだけなら、こんなふうにはならない。

たぶん私は、有馬さんの優しさに弱いんだ。

ちゃんと周りを見ているところ。押しつけがましくないのに、自然に気遣ってくるところ。さらっとしているのに、どこかあたたかいところ。そういうものに触れるたび、心臓が勝手に反応してしまう。