有馬さんは一瞬だけ目を瞬かせたあと、静かに答える。
「俺は大丈夫です」
その返事は短かったけれど、不思議と迷いがなかった。
「……わかりました」
小さく返事をすると、有馬さんはゆっくり頷いた。その仕草だけなのに、なぜか少し安心してしまう。
「じゃあ、そろそろ行きますね」
そう言って、有馬さんは左手を軽く上げながら腕時計を確認した。スーツの袖口から覗いた腕時計は、驚くくらいシンプルだった。無駄な装飾のない、落ち着いたデザイン。
なんとなく、有馬さんらしいと思う。
派手ではないのに、目を引く感じ。必要以上に主張しないのに、ちゃんと印象に残る。そんなところまで、この人らしい気がしてしまって、自分でもおかしくなる。
私はハッとして、慌てて頭を下げた。
「今日は、ありがとうございました」
朝ぶつかってしまったこと。会議のこと。AirPodsのこと。全部まとめてのお礼だった。有馬さんはそんな私を見て、少しだけ目を細める。



