遅かれ、早かれ、恋になりまして。




思わず瞬きをする。

電車の時間?

予想外の質問だった。


「会議とかある日以外は、今日と同じです」


答えながら、私は首を傾げる。すると有馬さんは少しだけ考え込むように顎へ手を添えた。その横顔が妙に絵になっていて、また変に意識してしまう。一瞬だけ視線を逸らしたあと、彼はまたゆっくり私を見た。


「じゃあ……明日の朝、電車で会えたら渡してもいいですか?」


その言葉に、頭の中が一瞬空白になる。


「……え?」


思わず間の抜けた声が漏れた。

明日の朝。電車で。
そんな提案を、有馬さんのほうからされるなんて思ってもいなかった。だって、有馬さんはきっと、仕事とプライベートをきっちり分けるタイプの人だと思っていたから。

朝の通勤時間なんて、誰にとっても貴重だ。会社に行く前の、数少ない自分だけの時間。私はその時間が好きだった。イヤホンをつけて、好きな音楽を流して、ぼんやり窓の外を見る時間。仕事モードに切り替えるための、大事な時間。そしてたぶん、有馬さんにとってもそうなんだと思っていた。

だって、昨日も今日も電車で見かけた彼は、どこか近寄りがたいくらい静かな空気をまとっていたから。ただ静かに外を見ていた。その横顔が妙に印象に残っている。だからこそ、そんな人がわざわざ「明日、会えたら」なんて言うことに驚いた。


「有馬さんは、どうですか?」


気づけば、私はそう聞き返していた。朝の通勤時間を使うことに抵抗はないのだろうか。私なんかに合わせることを、面倒だとは思わないんだろうか。そんな意味を込めた問いだった。