遅かれ、早かれ、恋になりまして。




できるだけ急いで、フロアへ戻る。

通勤カバンに入れたAirPodsを取り出して、足早にエレベーターへ向かった。早く、早く、と自分を急かすみたいに、無意識に1階のボタンを連打してしまう。


1階につくと、そのまま小走りでロビーへ向かう。

高いヒールの靴が床を叩くたびに、かすかに嫌な痛みが走る。今日は大事な案件だから、舐められるわけにはいかないと、気合を入れる日はいつも少し高めのヒールを選んでしまう。それが、こういうときに限って足を裏切る。

入口のところで有馬さんの姿を見つける。彼は少し離れた場所で、静かに資料を見ていた。


「ごめんなさいっ、有馬さんっ」


思わず声が少し裏返る。足が、痛い。さっきからずっと痛いのに、それを気にしている余裕もない。息切れしたまま顔を上げると、彼がまた一瞬だけ目を見開いた。



「お待たせしましたっ……あれ、お二人は……?」


息を整えながらロビーを見渡す。でも、そこにいたのは有馬さんだけだった。さっきまで一緒にいたはずの二人の姿が見当たらなくて、私は思わずきょろきょろと周囲を探してしまう。

もしかして、もう先に帰ってしまったんだろうか。そんなことを考えていると、有馬さんが私の視線の先を追うように軽く振り返った。


「二人は向かいのコンビニに行きました」


落ち着いた声でそう言ってから、彼はすぐにまた私へ視線を戻す。その目が、今度は少しだけ真剣になる。


「それより、明石さん。ここまで、走ってきたんですか?」


その言葉に、一気に恥ずかしさが込み上げた。


「あ、えっと……」


どうしよう。絶対、落ち着きのない人だと思われた。人を待たせてるからって、ヒールでロビーを走ってくる社会人なんて普通いない。さっきまで勢いだけで動いていたせいで、今になって急に冷静さが戻ってきてしまう。