「今朝は本当にすみませんでした」
深く頭を下げると、怪我がなくてよかったです、と上のほうから穏やかな声が降ってくる。有馬さんの声は、さっきまでの会議で聞いていたときよりも少しだけ柔らかく感じた。
「それで、あの…」
そこで一度止まる。言っていいのか一瞬迷って、それでも続けた。
「AirPods、入れ替わってしまっていて」
彼の表情がわずかに変わる。
「ああ、気づきませんでした」
短く、それだけ。
「それで、今から取りに行こうと思っていて」
少しだけ早口になるのを自覚しながら続ける。
「もしよければ、少しだけロビーの方で待っていていただいてもいいですか」
言い終えたあと、自分でも少しだけ息を止めていることに気づく。
「分かりました。待ってます」
彼は一瞬だけ小さく微笑んでそう言った。その表情が、仕事のときとも朝のときとも違って見えて、なぜか視線を逸らすのが少し遅れた。
「ありがとうございます」
私はそう返して、軽く頭を下げる。彼は「いえ」とだけ言って、先にロビーへ向かう人の流れに戻っていった。



