遅かれ、早かれ、恋になりまして。




「最後に、すみません」


静かな声。また、有馬さんだ。今までよりも少しだけ、トーンが違う。会議室の空気が一瞬だけ止まる。


「今回の提案、非常に整理されていて分かりやすかったと思います」


褒めているのか判断しづらいくらい、静かな声。


「その上で、実際の運用フェーズを想定したときに、このプロジェクトのゴールの定義はどこに置いていますか」


私は一瞬だけ言葉を失う。けれど、それは焦りというより、意外性だった。資料にも書いてあるはずの部分なのに、なぜか真正面から聞かれると重みが変わる。


「ゴールは…」


そう言いかけて、課長が横から補足しようとする気配がする。でも私は一度だけ手を軽く上げて制した。


「最終的には、導入企業の継続利用率を上げることと、そこからのアップセル導線の確立をゴールにしています」


言い切ったあと、ほんの少しだけ間が落ちる。その瞬間、また彼と目が合う。今度はすぐには逸らさなかった。数秒だけ、静かに向き合ってしまう。どちらも何も言わないのに、その間だけが妙に長い。


「理解しました」


彼はそれだけ言って、小さく頷いた。その一言で、ようやく会議室の空気がほどける。

課長が「では本件は以上で」とまとめに入り、資料が閉じられていく。

会議は終わる方向に向かっている。ちゃんと、終わる。なのに私の中だけは、さっきの、理解しました、だけが少し遅れて残っていた。