そこに入っていたAirPodsは、よく見ると私のものではなかった。正確には、私のものと同じなのに、微妙に違う。ぱっと見では分からないくらいそっくりなのに、よく見ると小さな傷の位置が違うし、なによりiPhoneに表示された接続名が見慣れないものになっていた。
『1112』
数秒、思考が止まる。
……え。嘘。
私は慌ててケースの中を確認する。
片方は間違いなく自分のもの。でも、もう片方だけ違う。駅で落とした時だ。あの時、慌てすぎて確認もしないまま受け取ってしまったから――。
床に転がる白いAirPods。彼がしゃがみ込んで拾ってくれた手。差し出されたものを、ろくに確認もせずに受け取った自分。
「……うそでしょ」
思わず小さく呟く。
つまり今、私のAirPodsの片方は、あの人の手元にあるってこと?
心臓がまたドクン、と大きく跳ねた。
私は思わずケースを閉じて、もう一度開く。
いや、見間違いかもしれない。そう思いたかった。でも何度見ても、表示される『1112』の文字は変わらない。自分のじゃない。完全に、入れ替わってる。
私は思わずデスクに肘をついて額を押さえた。
どうするの、これ。返さなきゃいけない。でも、どうやって?名前も知らない。連絡先も知らない。知っているのは、同じ路線を使っていることだけ。
そこまで考えた瞬間、昨日佳奈子に言われた言葉が脳裏に浮かぶ。
『電車の時間ずらせばよくない?』
「……いやいやいや」
思わず小声で否定する。



