遅かれ、早かれ、恋になりまして。




会社に着いて、私は小さく息を吐きながら、自分のデスクの椅子に腰を下ろした。

さっきまでのバタバタを落ち着かせるように、胸元を軽く押さえる。

朝からいろんなことがありすぎて、まだ心臓がちゃんと通常運転に戻っていない気がする。電車で再会して、駅でぶつかって、そのまま彼の背中に飛び込んでしまって。

思い出すたびに恥ずかしさがぶり返してきて、私は「うわぁ……」と小さく机に突っ伏したくなった。

でもいつまでも引きずってはいられない。
今日は大事なプレゼンの日だ。気持ちを切り替えなきゃ。


そう思って、私はさっきとっさに上着のポケットへ入れたAirPodsのケースを取り出した。
駅で慌てて受け取ったあと、そのまま無意識に突っ込んでいたらしい。

ちゃんとカバンに入れておかないと。

そう思いながら、私は何気なくケースを指先で弄る。

さっきまでの出来事を思い出さないようにしているのに、頭の中では何度も駅のホームの光景が再生されていた。転びかけたこと。彼のスーツを掴んでしまったこと。あんな近距離で顔を見てしまったこと。

思い出すたびに恥ずかしくなって、私は小さく息を吐く。


そしてそのまま、なんとなく。ほんのなんとなく、カチ、とケースを開いた。


「……あれ?」


なんとなく、違和感。
右耳側を取り出そうとして、指が止まる。