そんなふうに落ち着かないまま時間だけが過ぎていき、気づけばあっという間に会社の最寄り駅に到着する。
車内アナウンスが流れ、目の前の扉が開いた瞬間、私は小さく息を吐いた。
やっと解放される。
そう思ったのも束の間、私より先に彼が電車を降りていった。
その背中を見て、一瞬だけ思考が止まる。
あれ?昨日は、私のほうが先に降りたはずじゃ……?
そんな小さな違和感が頭をよぎる。
でも考えるより先に、人の流れに押されるようにして私も電車を降りた。その瞬間だった。
後ろから誰かに肩がぶつかる。
同時に、履き慣れていない高いヒールが何かに引っかかった。
「えっ――」
体勢が崩れる。踏ん張ろうとしても間に合わない。
ぐらりと前に傾いた身体は、そのまま目の前にいた彼の背中へと勢いよく飛び込んでしまった。
「…っ!」
突然背中に衝撃を受けた彼が、驚いたように振り向く。その瞬間だけ、時間の流れがやけにゆっくりになった気がした。スローモーションみたいに見える視界の中で、私は倒れそうになる身体をどうにか支えようとして、反射的に彼のスーツをぎゅっと掴んでしまう。
「っ、すみませんっ!」
情けないくらい慌てた声が出る。すると彼はすぐに、「大丈夫ですか?」と低く落ち着いた声で言って、私の腕を優しく掴み支えてくれた。
その手の感触に、一瞬だけ呼吸が止まりそうになる。彼から放たれた声が、妙に鮮明に耳へ届いた。



