妹の旦那に鞭を振るう姉

「お姉様……私嬉しい……」


「おめでとうアリス!」


 アリスは感極まって泣いているけど、アリスはひそかに憧れていた公爵令息のクロード様との婚約が決まったのだ!


 うちの伯爵家ではとても繋がれる方では無いと思っていたが、流石はやり手のお父様、そして公爵家も、そんなうちを評価して下さったことが明らかになり、貴族としても、姉としても、両方嬉しいですわ!




「わ……私ちゃんと愛されるかなぁ?」



 あらあら、普段は元気で生意気でしかないアリスも可愛らしいことで……!



「アリスなら大丈夫よ!」


 まぁ姉ヒイキかもしれないが、アリスは顔性格共にかわいらしいから問題無いわ!



「……一応姉からウザいかもしれないけど一言言っておくと、油断して安心しきって、当然の態度さえしなければ、何とかなるものよ!」



「……流石既婚者は色々知っているわね!」



「いや、結婚とか関係無く、それが人間関係で大事なことだから……!」



「……うん分かったよ!浮かれすぎてワガママ三昧だけはしないようにするね!」



 ……これできっと大丈夫、アリスなら上手くやっていけるわ!



 私は姉として、色々安心した。



 走馬灯のようにアリスの事を思い出す……


 うん昔は結構喧嘩をしたわね……アリスってワガママだったから……


 私も甘やかすような姉では無いから、そら喧嘩になるわ……!


 でもいつくらいからだろう、私がきっと大人になったんだろうね。


 アリスのワガママをスルーするようになったあたりから、割と関係が落ち着いたと思う。


 やっぱ無視って大事なのよ。そうしたらアリスも私にそういうのが通じないと分かると、比較的態度が軟化して、今みたいに落ち着いた関係になれたわ……!



 良かった……昔の関係ならば、アリスの喜びを素直に喜べなかったかもしれないから!


 何てことを思い出したりもした。いつになく感傷的になっているのかしら?



 こうしてアリスは公爵家に嫁いて行ったのであった!


 とは言えクロード様は後継者では無いので、公爵家から与えられたクロード様の領地にですが……!




 アリスが結婚して半年後、私は実家の伯爵家に今日は帰ってきたのだが、アリスは帰ってこない。うん色々事情があるのだろうということで、手紙を出すことにした。

 久しぶりに会いたかったけど仕方ないよね!



 ということで手紙を送ったのだが、返事が来ない……


 うーんあいつ面倒くさがりなところがあるから、返事を後回しにして忘れているな?



 そう思って、ちゃんと返事出さんかい!って内容の手紙も送り付けてやったが、返って来ない……


 あのさぁ……いくら幸せにしても、連絡の1つくらいよこさんかい!


 私はアリスのいい加減さにイライラしてきたのであった……!



「フローラ何かイライラしているようだがどうしたの?」


 夫であるミシェルに聞かれ、



「アリスったら、手紙の返事もよこさないのよ!」


 と訴えると……


「……何か嫌な事に巻き込まれてないといいけど……!」


 などと言い出す……



「どういうこと?」




「……私も聞いたのは最近なのだが、クロード様の評判があまり良くないんだそうだ、もちろん表面的にはしっかりした方なんだが、些細な約束を守らないタイプというか……」




「それとこれとどういう関係があるの?」




「いやまるで関係無いかもしれないが、何か不穏かなと……!」



 まぁ大丈夫よ、まさかアリスが酷いことをされてるとか無いはずよ!



 しかしだ、アリスから全く返事が来ないので、私も段々不安になってきた……




 一体どういうこと?



 しかしだ、今すぐにでも訪ねたいと思ったが、


 私は頭の中で考えを巡らせた!


 まずクロード様が本当に不穏な人物だとしたら、私がいきなり訪ねてもきっとまともに相手をしないか、私が警戒されるだけでいいことなど無い。


 かといって、実は特になんてこともなくアリスが怠けているだけならば、私が急に訪ねてもクロード様は素直に会わせて下さるだけだろうが、それならば、私が訪ねる意味は、安心が得られるだけで特に意味は無い。



 つまりだ、いきなり会いに行くというのは警戒されるだけか、なーんだで済む話で無意味かどっちかで、いいことではないでは無いか!




 そう思って夫のミシェルに相談すると……



「確かにフローラの言う通りだな!もしも良くないことがあるのならばクロード様がこっちが疑っていることに気づいて警戒するだけでいいことなんて何1つ無い!」



「いい方法は無いかしら?」



「……私が王太子様に仕えているのは知っているだろう?王太子様に些細なお願いをしようと思う」



「というと?」



「王太子様からのクロード様への些細な手紙、命令書でも何でもいい、それを出す機会があったら、私が届けておきますと言う名目で受け取り、それをフローラが持って行けばいい、王太子様からのお手紙を届けるついでに、妹に会いたいと言う名目ならば、筋が通っているから問題あるまい!」




 ということで、王太子様からのクロード様へのお手紙待ちだと思ったら、


 翌日すぐにミシェルが持ってくるでは無いか!



「は……早いわね……」



「王太子様に、クロード様への手紙を出す機会があったら、私にお任せくださいって頼んだ所、どういうことだ?と聞かれて事情を話したら、じゃあ適当に書いてやろうとすぐに準備して下さったのだ!」



「王太子様に感謝しかありませんわ!」




「……決してなれなれしくしないように!王太子様は恐ろしい方なのだから!」




「そ……そんなこと知っているわよ!」




「だが、安心をしていい、もしもクロード様が大問題を起こしているようなら、王太子様がきっと処罰して下さるから、あの方は貴族の醜聞に慈悲などかける方ではない!だからこそ恐ろしいのだが!」



「な……なるほどね!」



 こうして私は王太子様の手紙を持ってクロード様の屋敷を訪ねることになった!



 王太子様のお手紙があるということで、いくら公爵家と言えど、堂々と入ることができる!


 やはり効果は偉大だ!




 クロード様のお屋敷にたどりつくと、クロード様自ら挨拶して下さる……




「……わざわざ王太子様のお手紙を持っていただきありがとうございます!」




「いえ、役目ですから!そしてこれは役得というか、せっかくですので、妹のアリスの元気な姿を見たいのですが、アリスはどこでしょうか?」




「……アリスですか?」




 ……やはりおかしいのか?何故妙に渋るのだろうか……!




「アリスが何か?」




「いえ、今病気で寝ているので、会わせるわけにはいかないのですよ……!」




「えぇ!?面会できないほど酷いのですか!?医者は!?」



 私が驚きの余りたずねると……




「いえ、安心して下さい、そこまで酷いわけではないのです、でも安静が必要なので、誰も会わせるわけにはいかないのです!」




「……その程度でしたらせっかく来た以上久しぶりにアリスに会わせて頂けないでしょうか?」




「駄目です!興奮して病状が悪化したら困りますので!」



 この一点張りで会わせる気が無いので私はイライラして無理やりにでも、アリスの部屋に行こうとすら思ったが、どこがそこなのか分からない以上、その前に取り押さえられるわね……


 ってことで仕方なく引き下がったが、おかしい!怪しい!




 ぜーーーーーーーーーーーーーーーーったいにおかしい!




 私はブチ切れながら家に帰って、ミシェルにこの現状を訴えたのであった!




「……確かにクロード様の仰ることは矛盾している」




「それだけじゃないわ!やっぱ態度が怪しいのよ!」




「……それって怪しいと思っていたから何でも怪しく見えるみたいなことじゃなくて?」




「……そういう要素もあるかもしれないけど、何て言うか、形式的にだけ丁寧だけど、一切有無を言わさない理由がおかしいじゃない!妹に会いたがる姉にそこまでする意味ある?」



「確かにおかしいな!」




「……相手が公爵家じゃなかったら無理やりにでも踏み込めたのに!」




「……フローラ、私も知らなかったが、結構野蛮なんだな……」



「時と場合によるでしょ!」



「……すまない、もっともだ!」



「で、どうしたらいいと思う?やっぱ無理筋でも無理やりいく?」




「……いややめておこう、もしもクロード様が本当によからぬことをしているのなら、権力差で証拠が無い限りこちらが悪いことになるし、仮にクロード様が無実なら、笑い話になるかもしれないが、それでも上位貴族に失礼をしてしまったことになる!」



「でもアリスが本当に困ったことになっているのなら助けたいわよ!」




「……こんなこと王太子様に相談するのも筋じゃないかもしれないが、私がどうしても頼み込んでみるよ……ただし期待はするな!王太子様は決して下々のために動いて下さるみたいな甘い方では無い!だが、王太子様の協力が得られるのであれば、公爵家と言えどどうにかなるのは、手紙で立証済みだろ?」




 こうしてミシェルが仕事に向かったその日にすぐに王太子様から呼び出しをうけたのであった!


 ……何て言うか王太子様の決断力は凄いわね……やっぱこういうところ、高貴を超えた王家の方々は違うのだろうかなどと思いながら……!



「ミシェルから事情は聞いたが、つまりそちは妹のアリスが心配で、クロードが怪しいと申すのだな?」




「恐れ入ります、その通りでございます、しかしクロード様が本当に何かした証拠がない以上、こうして殿下のお力をお借りしたく……」




「良い!この手紙を持って行くが良い!中身にはこう書かれておる、王太子命令だ、姉が妹を心配するのはもっともだから、面会謝絶で無い以上今すぐに会わせるようにと!」





「あ……ありがとうございます!」



「今すぐにと書いてあることを忘れるでないぞ!」




「ははー?」



 何故今すぐを王太子様が強調なさったのか分からないが、おかげで再び公爵家に向かうことができて、感謝しか無い!




 クロード様の屋敷にたどり着くとクロード様は一瞬明らかに嫌な顔をしたが、すぐに切り替え、



「……今日はいかがなさいましたか?」



 などとまた気味悪い丁寧な不穏な言い方をしてくるのであった……


 怪しんでるせいでそう見えるだけかもしれないけど、どうしても怪しいのだ!




「クロード様、王太子様命令です!この手紙にあるように、アリスに会わせるようにとあります!」




「……分かりました、でもアリスはすぐに会うことは無理ですので、後日またお越しください」



「今すぐにとあります!」




「……分かりました。こちらです……」




 ……なるほど流石王太子様、誤魔化すことを予期して、今すぐを強調されて下さったのですね!




 こうしてアリスがいる部屋に案内されたのだが……




 アリスは何と縛られていた!



「ア……アリス!大丈夫なの!?一体どういうこと!?」



 私が慌てて駆け寄って縄をほどくと……



「お……お姉様?大丈夫よ、私クロード様に愛されているから……」



 などとうつろな表情で言うでは無いか……



 い……一体どういうこと!?



 私がブチ切れてクロードをにらみつけると……




「聞いただろう!アリスも私に愛されていると!」




「……愛されているってどう考えても縛られて、鞭で打たれた様子じゃない!どこが愛ですって!?」




「分かっていないな、この姿こそ美しいのだ!」




 な……何を言ってるんだ?こいつ本気!?




「あんた、いじめることが美しいみたいなことを言ってるんじゃないでしょうね!」




「私をそんな下らない存在と同じにするな!そうではない、私はアリスへの愛からアリスを美しくしたいだけなのだ!」




「……これのどこが美しいって言うのよ!」




「これだから教養の無いものは困る、真の美しさとは奉仕するものである!」



「ほ……奉仕!?」




「そうだ奉仕だ、そして最も奉仕すべき存在とは何か?奴隷である!奴隷は奉仕を仕事としていてもっとも美しい!だから私はアリスを奴隷にしてあげることで、もっとも美しくしてあげたのだ!!!!!!!」



 ……こいつ嘘をついているのではなく、この恍惚とした表情本気で言っているのね……




「分かっただろう!だからアリスも私の愛を受け入れ、幸せな家庭を作っているのだよ!」



「だったら、何で私を会わせなかったのよ!」



「……ふんどうせ愛の美しさをみんな理解なんてするわけ無かったからな!」




「……お姉様、大丈夫、だから私クロード様に愛されているから……」



 この様子を見て私は切れた!



 どう見てもアリスは洗脳されたかのように、考えがおかしくなってるじゃない!


 あんなにうざいくらい生意気だったアリスじゃなくなっている!


 こんなものが愛なものか!


 そもそもさぁ……!




 私は落ちていた鞭を拾って、思いっきりクロードをしばいた!



「……貴様何をするか!」



 とクロードが吠えてもお構いなしに鞭の連打だ!



「これで美しくなれるのでしょう!?だったら私も貴方を美しくしてやるわよ!」




「……や……やめろ、やめてくれ!」




「……絶対にあんた、アリスがやめてって言っても無視して鞭を打ち続けたわよね!」


 こう言いながら私はもっともっと徹底的に鞭で打ち続けてやった……



 するとアリスが正気になったのか……



「そ……そうよ、私は本当は鞭で叩かれたくなかったのよ!」


 と叫んだことで、私は残忍な気持ちになった……



「美しくすることは相手の拒絶よりも大事なのよね?」



 こうして私はクロードが気絶するまで鞭を打ち続けた!



 翌日筋肉痛の権化で一切動けなくなったが、あの時は興奮が限界を突破してたから、あんなにも無理がきいたのだろう……




 私は王太子様から呼び出された!



 流石にやりすぎを怒られるかも、場合によっては罪に問われるかもしれなかったが、割と悔いは無い!


 しかしだ……




「……まぁ確かにやりすぎなのは否めないが、そちの妹を思う気持ちに免じて許そうでは無いか、そもそも自分は嫌だが他人にはしていいみたいな下らない振る舞いは、私も好まぬしな!」




「ありがとうございます……!」



「気にすることは無い、そちが目くらましとなってくれたのだから!」



「どういうことでしょうか?」



「クロードなんて小物は私からしたらどうでも良かった、だが実家の公爵家が外国と通じているという噂があってだな、調査したかったのだ、今回の事で、クロードの調査の振りをして、査察することが堂々とできるでは無いか、疑ってることがバレずにな!」



 ……なるほどそこまでお考えだったからこそ協力して下さったのですね……



 ミシェルが言うように、恐ろしい方だというのは私も分からされた……



 そして後日分かったことだが、公爵は本当に外国に通じていたらしく、一族処刑となった。クロードも……



 アリスを助けられたのは良かったけど、まさかこんなことになるなんてと、深い政治の闇を知って恐ろしいと思ったのであった。


 しかし元気になったアリスには突っ込まれた!



「確かに王太子様や政治の闇も恐ろしいけど、私は喜々としてクロードに気絶するまで鞭を振るうお姉様も恐ろしかったわよ!」