「……ルカ……しっかりして……お願い……!」
雫の声に、ルカがかすかに反応した。
消え入りそうな、蚊の鳴くような掠れた声で、か細く告げる。
「こ……ここから……逃げ、ろ……。
人間が……すぐ追って、くる…」
その言葉を聞いた瞬間、雫は思わず顔を上げた。
扉の向こう――木々に阻まれた森の奥から、
ドタドタと複数の足音が響き、誰かの話し声がかすかに混ざる。
赤く揺れる松明の光が、確実にこちらに向かって迫ってきた。
「っ、嘘………!」
雫は反射的にルカの腕を自分の方に回し、
彼の重い身体を抱え上げた。
息も絶え絶えのルカを抱きかかえて震える足で奥の部屋へ駆け込み、
必死に扉の鍵をかける。
ルカはぐったりとしながらも、途切れ途切れに声を絞り出す。
「は……やく……逃げろ……」
雫はその声を聞くたびに胸が張り裂けそうになる。
座り込んだまま、ルカを自分の胸に押し付け、両腕で抱きしめる。
「ルカのこと……置いてくわけないじゃん……!!」
声が震え、涙が頬を伝う。
恐怖で心臓は破れそうに鳴り響くが、
それ以上に、ルカを守らなければという決意が全身に力を与えていた。



