* * *
雫と別れ、森の道を一人で引き返す。
夜風が頬を撫で、湖で見た月光の残像が目にちらつく。
暫く歩くと、地面に何か落ちているのが見えた。
――マッチの箱だ。
ほっと息をつき、駆け寄る。
両手でそっと拾い上げ、指先で確認する。
湿ってもいない。
それを確認したルカが振り返り、
湖のほうへ戻ろうとしたその瞬間だった。
木々の奥、闇の向こうに赤い光が揺れる。
炎――松明だ。
同時に、地面を踏む複数の足音が聞こえてくる。
咄嗟にルカはサッと木の陰に身を隠し、息を潜めた。
影の中で体を小さく丸め、目だけで周囲をうかがう。
足音は徐々にこちらへ近づく。
松明の光が揺れ、木々の隙間から顔が見えた瞬間、ルカの心臓が
一瞬凍った。
十字架を胸にぶら下げた男――人間、それも吸血鬼狩りだ。
――まずい。
直感が、血のように濃い危険を告げる。
吸血鬼である自分にとって、これは命取りになりかねない。
ルカはそっと立ち上がり、木陰から離れようとした――その時。
パキッ――
微かな音が、夜の静けさを裂いた。
ルカは反射的に足元を見る。
そこには折れた枝が一つ。
どうやら踏んでしまったらしい。
松明を持つ人間達が、音に気づいた。
辺りを警戒するように立ち止まり、ゆっくりと戦闘態勢に入る。
ルカは一人、引きつった自嘲気味の笑みを浮かべた――。



