風が、頬を撫でる。
知らない匂いが、肺いっぱいに流れ込んできた。
これが――外。
胸の奥が、ぎゅっと締めつけられる。
綺麗だと思う前に、怖いと思う前に、雫は走り出していた。
裸足のまま。
地面の冷たさも、小石の痛みも、気にする余裕はなかった。
頭の中の思いはただ一つ。
ここから、離れないと。
どこでもいい。
どこへでもいい。
とにかく、あの家から、遠くへ。
息がすぐに苦しくなる。
体力がないことは、雫自身が一番よく知っていた。
それでも、足を止められなかった。
後ろを振り返る勇気もない。
もし、今振り返ってあの家が見えたら――
そう考えるだけで、足が速くなる。



