ぶんぶん、と小さく首を振る。
嫌な考えを、無理やり頭の外へ追い出すように。
「……考えすぎ、だよね」
誰に向けるでもなく、小さく呟く。
声は静かな部屋に吸い込まれて、すぐに消えた。
それでも――
胸騒ぎは消えなかった。
心臓の鼓動が少しだけ早い。
耳を澄ますと、家の外で風が木々を揺らす音がやけに大きく
聞こえる。
雫はソファの上で膝を抱えた。
ルカがいつも座っている場所に、無意識に視線が向かう。
「……早く、帰ってきて……」
掠れた声。
願うような、祈るような言葉。
雫はまだ知らなかった。
この胸騒ぎが、ただの気のせいではなかったことを。
そしてこの静けさが、嵐の前の、あまりにも穏やかな――
最後の時間だったことを。



