「……そんなに気、使わなくていい」
声音は低く、穏やかで。
どこかくすっと笑うような気配が混じっていた。
「皿運ぶくらい、どうってことねぇよ」
「で、でも……」
雫が言いかけると、ルカは肩をすくめる。
「そもそもここは俺の家だし、雫が気張る必要ねえ」
「……」
雫は、小さく唇を噛みしめてから、顔を上げる。
「……ありがとう」
今度は、さっきよりも、少しだけ落ち着いた声で。
ルカは一瞬だけ視線を逸らし、気まずそうに苦笑した。
「……礼、言われるようなことじゃねぇから」
雫の胸の奥が、じんわりと温かくなる。
この家は、まだ静かで、少しだけ寂しい。
でも――
ここに「気を使わなくていい」と言ってくれる誰かがいる。
それだけで。
雫にとっては、十分すぎる幸せだった。



