「え、あっ……! る、ルカ……!」
椅子を引く音が少し慌てた調子で響き、雫は慌てて後を追った。
「運ばせちゃってごめん……! あ、あの、私も……!」
そう言いながら隣室に足を踏み入れると、そこは簡易的な台所だった。
小さなシンクと、簡素な調理台。
壁際には戸棚が備え付けられていて、中を覗けば、ほんの少しの食料と、
最低限の食器だけが整然と収められているのが分かる。
吸血鬼は、人間のように食事を必要としない。
その事実を裏付けるように、キッチンはほとんど使われた形跡がなく、
どこもかしこも妙に綺麗だった。
油汚れも、焦げ跡もない。
まるで「使われる日」をずっと待っていたみたいに。
「……」
雫は、思わずきょろきょろと辺りを見回してしまう。
人の生活の気配はあるのに、どこか静かで、控えめで――
この家そのものが、ルカの生き方を映しているようだった。



