「雫、次もあるからね。休んでる暇はないわ」
母の言葉に、雫は小さく頷く。
「……はい」
本当は、立っているのもつらかった。
体のあちこちが、同時に悲鳴を上げている気がした。
でも、雫は“いい子”だった。
誰かが助かるなら。
痛いのは、自分だけでいい。
部屋に戻ると、雫は壁にもたれて座り込んだ。
薄暗い部屋。外の音はほとんど聞こえない。
風の音だけが、かすかに木板の向こうで鳴っている。
――外。
雫は、まだ見たことのない外の世界のことを思った。
森の匂い。
空の色。
夜の冷たさ。
そのどれもが、遠くて、眩しくて、そして――怖かった。
それでも。
「……行ってみたいな」
ぽつりと、誰にも聞こえない声で呟く。
次に雫が目を覚ますとき、この家の外にいられたらいいと、そう願いながら。



