「……分かりました」
雫は、小さく笑った。
本当に、微かな笑みだった。
名前を知っただけなのに。
それだけなのに――
目の前の人が、“噂の怪物”ではなく、
同じ場所で息をする、ひとりの人になった気がした。
ルカは、視線を逸らしながら、ぽつりと呟く。
「……夜が明けるまではここにいろ。」
許可というより、事実を告げるみたいに。
「夜の森は危ない。」
雫は、胸に手を当てた。
怖い世界の中で、初めて向けられた、無条件の言葉。
「ありがとうございます……ルカ。」
その名を、もう一度呼ぶ。
ルカは安心したように目を細めた。



