「っ、雫!」
喉の奥から、絞り出すように名前を呼ぶ。
その声は震えていたはずなのに、不思議と後悔はなかった。
涙もろくて、誰よりも優しい。
自分の優先順位は低いくせに、他人の痛みには誰よりも敏感で。
一見大人しそうなのに、意外と頑固。
凛としていて、この場にいる誰よりも芯が強い人。
それが、俺の見てきた鈴宮雫だ。
視界の先。
フェンス越しに、必死に手を伸ばしているその姿。
泣き崩れそうで、壊れてしまいそうで。
それでも、俺を見てくれている。
――――――――雫に出会えてよかった。
ゆっくりと、口元が緩む。
今までで一番、明るくて。
一番、優しくて。
何も背負っていないみたいな――
ただの年相応な、普通の男の子の笑顔だった。
「―――――愛してる。」
はっきりと、そう告げた。
その言葉だけは、どうしても残したかった。
…………0。
次の瞬間。
鋭い刃が、迷いなく振り下ろされる。
風を裂く音が響いた。



