けれど、その揺らぎはすぐに消える。
兵士の視線がある。
周囲の群衆がいる。
そして――ここで守らなければならないものがある。
ルカは視線を逸らしたまま、もう一度繰り返す。
「……知らねぇ、あんなやつ。」
今度は、はっきりと。
その瞬間、雫の指先から力が抜けた。
金網に触れていた手が、ゆっくりと滑り落ちる。
「……っ」
息が詰まる。
胸の奥がぎゅっと掴まれて、呼吸ができない。
ルカは、ほんの一瞬だけ雫の方を見た。
そして、いつものように――少し困ったような、
どうしようもないものを受け入れるみたいな笑みを浮かべる。
それは、出会った頃から何度も見てきた顔だったのに。
今はどうしようもなく、遠く感じた。
ルカの唇が、かすかに動く。
声にはならない。
それでも雫には、はっきりと分かった。
――笑ってろ。
次の瞬間、隣にいた兵士がルカの銀髪を強く掴み上げた。
「今からこの吸血鬼を処刑にかける!!」
無理やり顔を上げさせられたルカの身体がわずかに揺れた。
抵抗はない。
ただ、そこに“立たされている”だけ。



