俯いていたルカの指が、ほんのわずかに動いた。
金網の向こうで、ルカがゆっくりと顔を上げる。
その瞬間、雫の呼吸が止まった。
――笑っていた。
出会ったばかりの頃と同じように。
どこか曖昧で、少し困ったような、力の抜けた笑み。
あまりにもいつも通りで。
だからこそ、現実味がなかった。
ルカの唇が、かすかに動く。
声は届かない。
それでも、その形だけで雫には分かった。
「……なんで来るんだよ」
そう言っていた。
その瞬間、雫の胸の奥で何かが崩れる。
「……っ、何それ……」
掠れた声が漏れる。
金網を握る手に力が入る。
指が白くなるほど強く、強く掴む。
「ふざけないで……っ」
涙が一気に溢れた。
「なんで……そんな顔するの……っ!!」
叫びは、もう言葉になっていなかった。
ルカは笑ったまま、ほんの少しだけ目を細める。
まるで――
「これでいい」って言うみたいに。
雫は金網に額を押しつける。
冷たい鉄の感触が、現実だけを無理やり押し付けてきた。



