「……よかった」
声にならないくらいの小さな言葉。
その瞬間だった。
ルカのまぶたが、ゆっくりと持ち上がる。
赤い瞳が、まだ少しぼんやりしたまま雫を捉える。
一秒。
二秒。
完全に状況を理解した瞬間、ほんの少しだけ目が見開かれる。
「……何してんだ」
掠れた声。
予想通りの言葉。
けれど、いつもよりずっと、力の抜けた声だった。
雫は固まったまま、一拍遅れて視線を合わせる。
そして——
「……おはよ。」
それだけ言って、小さく笑った。
ルカは数秒黙って、それから少しだけ視線を逸らす。
「……近くねぇか?」
「ルカが動かないからだよ」
即答されて、ルカはふっと小さく息を吐いた。
反論する気力がないのか、それとも諦めたのか。
そのどちらでもいいような沈黙が落ちる。
洞窟の中は、相変わらず静かだった。
でもその静けさは、もう昨日のような張り詰めたものじゃない。
ただ、二人がそこにいるだけの静けさだった。



