雫は息を止めたまま、少しだけ視線を逸らそうとして——やめた。
逸らしたら、今この瞬間が消えてしまいそうだったから。
ルカの睫毛が、ほんのわずかに揺れる。
その小さな動きだけで、また心臓が跳ねる。
(……こんな顔、するんだ)
戦っている時の鋭さも、
怯えを隠そうとする不器用さも知っているのに。
今はただ、静かで、柔らかくて。
どこにでもいるみたいな——それでいて、
どこにもいないような顔だった。
雫はそっと指先を動かした。
触れようとして、途中で止める。
(起きたら……怒るかな)
そう思った瞬間、少しだけ笑いそうになる。
怒る、というより。
きっとまた「何してんだ」って困った顔をするのだろう。
その想像が、なぜか妙に優しくて、胸の奥があたたかくなる。
ルカの呼吸が、一定のリズムで続いている。
生きている音。
昨日まで、失いかけていたものの証拠。
雫はようやく小さく息を吐いた。



