「……」
胸の奥で、何かが、静かに崩れる。
男は、雫の反応に気づいたのか、少しだけ居心地悪そうに視線を逸らした。
「それに……吸わなくても、生きていける」
淡々と、そう言った。
雫は、しばらく言葉を失っていた。
目の前の人は、噂に聞いてきた“怪物”とは、あまりにも違う。
怖い、はずなのに。
それよりも先に、
――安心、という感情が湧いてしまったことに、雫自身が驚いた。
「あっ……ありがとう、ございます……」
気づけば、そう言っていた。
男は一瞬だけ目を丸くしてから、小さく、息を吐いた。
「ここは、俺の家。森の奥だ」
それだけ言って、少し距離を取る。
逃げ道を、残すみたいに。
雫は胸に手を当てた。
まだ、怖い。



