雫はそのまま、ルカの腕の中から抜け出さずに続けた。
「私がどうしたいか、は私が決める。
ルカが勝手に結論出すの、ずるいよ」
少しだけ、拗ねたみたいな声だった。
ルカは息を止める。
雫はそのまま、ルカの服を軽く握った。
ルカの中の“正しさ”が、少しずつ軋む。
抱きしめているはずなのに、
逆に抱きしめられているような感覚だった。
守っているつもりが、いつの間にか支えられている。
ルカはゆっくりと目を閉じた。
「……お前は、ほんとに何も分かってないな」
雫は小さく笑う。
「うん、そうだね」
即答だった。
その瞬間、ルカの腕から力が抜けた。
代わりに、今度は本当に“抱きしめる”形になる。
逃がすためでも、縛るためでもない。
ただ、そこにいてほしいという形。
ルカは小さく息を吐いた。
「……俺は強欲だな。」
誰にも届かないくらい小さな声。
それでも雫には聞こえたらしくて、少しだけ笑った気配がした。
洞窟の中で、外の世界とは切り離されたみたいに、
時間がゆっくり沈んでいく。
正しいかどうかなんて、どちらもまだ分からない。
それでも今だけは、離れる理由よりも——
離れたくない理由の方が、少しだけ勝っていた。
朝の光は、洞窟の奥までは届かないはずなのに、
どこか空気だけがやわらかくなっていた。



