洞窟の中は静かだった。
外の曇天からこぼれるわずかな光が、岩肌を淡く照らしているだけで、
世界はほとんど音を失っている。
その静けさの中で、二人の呼吸だけがやけに大きく聞こえた。
ルカの腕に、少しだけ力がこもる。
壊れないように。
でも、逃がさないように。
そのどちらにもなりきれない力だった。
雫はすぐに気づいて、小さく息を吸う。
「……ルカ」
呼びかける声は、責めるものじゃない。
ただ確かめるような、静かな音だった。
ルカは答えない。
答えられないまま、ただ目を伏せる。
頭の中では、同じ言葉が何度も巡っていた。
——雫は、ここにいるべきじゃない。
——巻き込んじゃいけない。
——自分の側にいたら、いつか必ず壊れる。
その考えが正しいはずだった。
ずっとそうやって生きてきた。
なのに。
腕の中の体温だけが、それを簡単に壊していく。



