ルカの呼吸が、少しずつ変わる。
さっきまで乱れていた息が、ゆっくりと整っていく。
顔色も、ほんのわずかに戻っていくのが分かった。
(……戻ってる)
その事実だけが、静かに胸へ落ちていく。
怖さは完全には消えない。
けれどそれよりも、安堵のほうが大きくなっていく。
ルカが生きている。
それが目に見える形で戻ってくる。
やがて、牙が静かに離れた。
「……っ」
遅れて、腕に熱と痛みが戻る。
雫が小さく息を吐くのと同時に、ルカの顔がゆっくりと上がった。
息はまだ荒い。
それでも、さっきよりは確かに“戻ってきている”顔だった。
ただ、その瞳はすぐに雫を見て――
強く揺れた。
苦しさと、怒りと、言葉にならない感情が混ざっていく。
ルカは、しばらく動けなかった。
雫の腕から離れたまま、視線だけがそこに縫い付けられている。
その表情は、もう“回復した吸血鬼”のものではなかった。
むしろ逆だった。
苦しそうで、悔しそうで、何かを必死に押し殺している。



