牙が、そっと沈む。
強く噛み裂くようなものではなく、ためらいが混じった、
ぎりぎりまで抑え込まれた動きだった。
雫は一瞬だけ肩を強ばらせる。
「……っ」
思っていたほどの痛みはない。
鋭い衝撃というより、熱がゆっくりと流れ込んでいくような感覚だった。
けれど、そんなことよりも先に胸に残ったのは、別のものだった。
ルカの表情だ。
目を閉じ、眉を寄せ、歯を食いしばるその表情。
まるで、自分の行為そのものに耐えているみたいな顔。
(……ルカ。)
その顔のほうが、痛い。
雫は腕を動かさないまま、ただじっと見ていた。
血が抜けていく感覚は、はっきりとした恐怖にはならなかった。
体の奥の何かが、静かに緩んでいく。
力が抜け、頭の奥が少し遠くなる。
それなのに、不思議と嫌ではなかった。
ルカが、そこにいる。
その一点だけが、雫の中で確かに残り続けていた。



