雫が自分の腕を見ると、転んだ時にできたであろう傷が、
丁寧に手当てされていた。
……どうして。
混乱の中で、言葉が、口をついて出た。
「……血……」
声が、震える。
「……吸わないんですか……?」
男はきょとんとした。
本当に、心底不思議そうな顔だった。
「……は?」
一拍。
それから、ゆっくりと首を傾げる。
男は、少し考えるように視線を宙に向けてから、
当たり前のことを言うみたいに、口を開いた。
「いや……噛んだら痛ぇだろ。普通に」
その言葉に、雫は目を見開いた。
――痛、い?
人の血を吸わない理由が、そんなにも単純で、優しいものだなんて。
目の前に立つ男の子は、雫が聞かされてきた“恐ろしい吸血鬼”とは、
あまりにも違っていた。



